大いなる帰還【豚山肥太】

豚山肥太の詩と小説を綴るページ

キャベツ畑でつかまえて

キャベツ畑でつかまえて そういうタイトルの小説を書こうかと思うくらい当時の僕の食生活はキャベツ中心で回っていた。生活の困窮は僕の日々の暮らしにも訪問して、勿論、世間にも偏りなく押し寄せていて、僕のケータイの買い物のメモにはいつもキャベツの文…

優しさが悲しさを

悲しみが君に届く頃、どうしてるってきくことも躊躇してしまう夜 最初から何もなかったら、そう思おうとしたけれど 子供の頃の大切な人達の思い出の様に、僕の心に目の裏に刻まれた優しさだけの思い出 悪い思い出は忘れてしまった、やがて昔の傷の癒える部分…

白日

僕は気がつくといつもの街にいて、いつものように受験勉強と大阪の柔道部の下級生の新人に怯えていた。 そんなことでは気分は晴れませんな そう、前を通りすがった黄色い帽子の老人は言うと僕に口笛を吹くことを強要した。あいにく僕は口笛がふけなくて、老…

Sleeping Golem と dwarves

この町にはかれこれ50年近く眠り続ける男がいる。 男は大きな身体をしていて、眠りに落ちるまでは、凄く優秀な事で有名で、勉学に関する事では、今や町というより都市と呼ぶ方が自然な程、発展したこの町でも彼の記録を破るものは現れていない。 男には色の…

Storytelling

朝、男達は稼いでくるぞと拳を上げて家を出る。誰もそのチケットが大当たりしない事は知っている。だけどさ、続けるんだ。いつだって過程の中に私達の墓標はある。 苦悩せよ。100万年経ったって、そうして私達は生み出している。作り出している。 物語はいつ…

暑さによりて

八月が成虫になる折、雨は足音を潜め、風のない季節が流れていた。 僕は極めてよくこの地球にいる人間というやつで、ご飯を食べる為に営業マンをしている。次の営業先へと歩みを進めながら、止まらない汗に危険さへ感じながら、ポカリスエットのペットボトル…

雲から降る音楽

誰だろう?こんな美しい雲を描いているのは 僕は空を見上げながらいつまでもそうしていたかった。 ラジオカセットのボリュームを上げて、そう、まるで空から音が降ってくるようで 僕はそのまま、音楽になってしまいたかった。 バイトもろくに続かねぇ。直ぐ…

夢まで走ってった

履きつぶした靴からは路面を濡らした雨水が絶えず入ってきて、これだから雨の日は嫌なんだ。そう、都会の隅に隅に向かいながら思ったんだ。 一時、流行ったミニ四駆のサーキットを備えた模型店の店舗をそのまま使ってやってるという怪しげなその店ののれんを…

穏やかな風の中へ

洗濯物の入ったバスケットから洗剤の匂い 辺りはまるで薄い水色のセロファンでもかかった様なトーン クリスマスにもらった大きなロボットを踏んでしまいそうになる 弟と二人でテープレコーダーでラジオ番組を始める 何を言っても面白くておかんが乱入してく…

再開

「 結局ダメでしたね。 」 目の前を「結論」がニヤニヤ笑いながらこちらに確認の返事を促してくる。 まだまだともいいたくないし、そのとおりとも認めたくもない。 森の中の樹々の葉は誰に言われる事もなく伸びている。自然の摂理の中で。 専門学校の中での…

優しさ

悲しさの先に 涙の後に 咲く花は何なのだろう? 答えなんてないさ 永遠に問い続ける あの頃、あの人が優しかったねって思い出して どうしようもない時間の中 空を見上げている 冷たい風が服の隙間から入って 僕はこの街へ来た頃の事を思い出している 優しい…

寂しさ

夕暮れにまるで街角のコンクリートになった様な気分で吹く口笛。 母は今日も寝たきりで、病の床。この病気は移るかも知れないと、どの医学書にも最新の論文にも無いことをうわごとの様に言っている。 汚れちまった悲しみに、中也はそう言葉にした。 なぁ、こ…

SMILE

この街で一番高い塔の様なビルに貼り付いた巨大な液晶画面では、僕の知らない若い異性達が時代を羽織って、新しい文化を歌っている。僕はヒノマルを二枚、屋台の店主に渡すと、出来上がったばかりの、ネギとてんかすだけのうどんをすすった。 僕がうどんをす…

今日も気だるい眠気の中を一時間目から突っ走り、というか存分に睡眠を確保しながら、本日の終わりの6時間目を迎えながら、帰宅したら続きをやる予定のゲームの事を考えてワクワクと興奮だけしていた。 昨日までに進んだゲームの中で、確保したもの、広げら…

化学

学生時代の人間で集まって5人対5人で婚活パーティーが行われた、皆、ここいらの島々から出てきていて、僕は丁度、三つ目の編入先の大学の単位も満たせぬままに、あちこち、アルバイトをして食いつないでいた。 初日に、パーティー会場の島で買った新聞では…

夜空の流星群

人間関係で上手くいかない事が重なって、この先の人生に絶望して、僕は殺されてしまいたいと思うようになった。自殺への衝動とほぼ同じであったが、口に出すと言葉は、殺されたいになっていた。 僕はなんとか回っていた家族の中で、父にも母にも殺してくれと…

渇望

僕の地域の柔道の地区大会の最重量級は、長い間、うちの中学の大将が優勝し続けていて、地区に敵無しの状態だった。最近、柔道部の出来た私立の中学校は相当強いらしいという知らせを聞いてから、一月もせぬうちに、僕らの中学とその中学とで合同練習が組ま…

スター

僕の通う学校は体育祭と文化祭、それ以外に毎年、全学年から七人が選出され、皆で高名な学者のもとで合宿を行う。合宿の最後の日に、合宿の成果を全校生徒の前で披露するきまりだ。 今年、僕が選ばれた事を知ったのは、期末テストが終わった後の担任との面談…

コーヒー

久しぶりに遠方に住む友人が僕の家まで遊びに来るのでその日は朝から掃除や友人をもてなす簡単な料理の準備に追われていた。 午後を過ぎた頃に家のチャイムが鳴って友人を部屋に招き入れた。 季節は少し肌寒い日々が続くようになってきて、友人もコートを着…

ヒーロー

僕は照明を落とした部屋の中を、新作のゲームを夢中になってやっている。途中からはネットで見た裏技を使って無敵状態でゲームをやっている。全てのパラメーターが異常になった登場人物達が、敵に遭遇する、戦うというより、出会った瞬間に敵は消滅してしま…

モンスター

この都市では比較的大きな本屋で注文しておいた「小説の書き方」の類いの本を受け取ると、自宅への帰路についた。本屋ではデカデカと、地上に突然現れるようになった化け物の話が、大々的に宣伝されていた。近々映画化もされるようで、映画のエイリアンを地上…

柔道場について

中学へ進む前は部活は柔道部に入ろうと決めていて、小学校の終わりから近くの町道場へも通い出した。道場には同じ地域にある全国屈指の大学柔道の先輩が教えに来てくれて、凄く恵まれた環境だった。 僕が中学へ進む少し前に、中学の柔道部は部員がいないこと…

筆跡

あなたが馬鹿にしてくれたから今日がある あなたが笑ってくれたからこの手がある あなたがさげずんでくれたからこの思いがある あなたが否定してくれたから今こう思うことができた あなたがいてくれたから今の僕がある 夜の中を幾つもの線を引くことを繰り返…

帰郷

夕方には涼しい風が吹き始めた頃に、僕は故郷の温泉地で開かれた集団お見合いに参加した。 同級生も何人か参加するらしく、僕は密かに胸を高ぶらせて帰郷の途についた。 あの子はどうしているだろう? そのことばかり考えながら、僕は新しく作られたお風呂付…

部活動のはなし

その場所は校舎から少し離れた位置にあり、その部室では沢山の変わったものが作られていた。雰囲気は寒色のような彩りが部室全体にフィルターのようにかかってあり、最初に訪れたのが、真冬であったことからか、部室の構成物の一つ一つが、まるで雪の結晶で…

つづく

第一集団ははるか遠く僕はそれでも走っていた、真夜中を、真っ昼間を、濁った海の藻屑の中を、ただ己の中にある前へと向かう推進力だけを頼りにして、ひたすら走っていた、朝焼けの道路に規則正しく並んだ街灯を数えては、もう一つ、もう一つ、永遠に終わら…

遠い記憶から【超短編小説】

いつのも学校の帰り道、通学路を帰っている僕、工場の多い僕の住む街には、時々、工場の煙が問題になって、光化学スモッグになっていた。 見慣れない、工場の扉を開けると、玄関があって、今日からこの家に住むことを理解した。同じような年の子供が、3人い…

行方【超短編小説】

大事すぎて触れられないものがある 大事すぎて誰にも売れないものがある 大事すぎて壊してしまったものがある 時間はただ、ひたすら不可逆的に流れていく、それでいいんだ。それでいいんだ。 僕は東海地方の電車の路線図を見ながら、行き先と乗っている電車…

喜望峰にて【超短編小説】

長い雨のトンネルの中をカレンダーがくぐると バスルームには小さく黒いカビが現れて キッチンが不衛生になる速度がいくぶん増した。 久しぶりに買ったNewtonという雑誌は思っていた特集が期待外れで それでも普段読まない事が盛り沢山で自分の中で勝手に及…

玩具の蝉【超短編小説】

恋がしたい。そう思っていた。片思いでも誰かに胸をときめかすことがなくなっていく、 ふと、あの不整脈が恋しくなって、私は春に似合う服を買いに、スーパーに出かけた。 スーパーでは沢山の野菜が値段も安くなって売っていた。いつも買う野菜は同じで、調…