大いなる帰還【豚山肥太】

豚山肥太の詩と小説を綴るページ

2020-05-01から1ヶ月間の記事一覧

行方【超短編小説】

大事すぎて触れられないものがある 大事すぎて誰にも売れないものがある 大事すぎて壊してしまったものがある 時間はただ、ひたすら不可逆的に流れていく、それでいいんだ。それでいいんだ。 僕は東海地方の電車の路線図を見ながら、行き先と乗っている電車…

喜望峰にて【超短編小説】

長い雨のトンネルの中をカレンダーがくぐると バスルームには小さく黒いカビが現れて キッチンが不衛生になる速度がいくぶん増した。 久しぶりに買ったNewtonという雑誌は思っていた特集が期待外れで それでも普段読まない事が盛り沢山で自分の中で勝手に及…

玩具の蝉【超短編小説】

恋がしたい。そう思っていた。片思いでも誰かに胸をときめかすことがなくなっていく、 ふと、あの不整脈が恋しくなって、私は春に似合う服を買いに、スーパーに出かけた。 スーパーでは沢山の野菜が値段も安くなって売っていた。いつも買う野菜は同じで、調…

ある人生【超短編小説】

雨を自宅周辺まで予約すると、僕は家庭菜園のコンピューターを開けると、いくつかのカードを入れ、あと2,3時間後にやってくる雨への準備を整えた。 そろそろ、家庭菜園のプログラムも古くなってきているので、現行バージョンに最適化させて書きかえないとい…

かすみ【超短編小説】

私には恋人がいて、名前をかすみという。一般的にはラブドールと呼ばれるもので、世間の人は恋人とも人間とも思ってくれない。だが、私にはかすみは恋人以外の何者でもないことははっきりと確かなのだ。 私はある夏、仕事の休暇にかすみを連れて、旅行に出か…

友人へ【超短編小説】

空に太陽がのぼり ある子供は電車に夢中になり、ある子供は昆虫に夢中になった。 そんな子供の中の一人が争いに夢中になった。 正確に書くならば争いについて考えることに夢中になった。 彼は目の前で起きる子供同士のケンカ、親が四季折々に折りなす夫婦げ…

strawberry bus 【超短編小説】

夜になると俺は機械のスイッチを入れて女の裸を眺めた、女の裸から女の裸に飛んで、ページ全ての女の裸を見終わると次のページに飛んでまた女の裸を眺めた。 甘く酸味がかった夜の中を奈落に落ちるような気持ちで俺は溶けていった。 音楽と照明の刺激が強す…

今日のすべて【超短編小説】

TVの中ではチャンピョンがたかだかと拳を上げて歓喜の中にいる いつか、その場所に行くんだと僕は決めて ほてった魂をかかえて、走りこみに向かった 深夜を回っても原稿は完成せず、政治的な政府の中の政治的な女と男の政治的な話をまとめるのに、苦慮してい…

帰るべき場所へ【超短編小説】

高ぶった感情で震える声で歌っていた まるで自分が主人公みたいで、その頃はまだ酔えていた どんどん、客観的にみざるおえない事実がハッキリと積もって 僕は僕が天才でないと知る ただ、翼くらいは生えてるはずさ 今だって空くらいは飛べるくらいの 駅前の…