2020年の豚山肥太のことのすべて

豚山肥太による詩と小説を綴るページ

帰るべき場所へ【超短編小説】

 

高ぶった感情で震える声で歌っていた

 

まるで自分が主人公みたいで、その頃はまだ酔えていた

 

どんどん、客観的にみざるおえない事実がハッキリと積もって

 

僕は僕が天才でないと知る

 

ただ、翼くらいは生えてるはずさ

 

今だって空くらいは飛べるくらいの

 

 

駅前のそば屋でコートに身を包んでうどんに一味をふると

男は手帳を開いて、今日の夢に必要な写真の撮影場所にチェックマークをつけた

 

成人映画の大きな看板をカメラにおさめようとするが、映画館が写真を撮り終えるまでになくなってしまった

 

そこは今日の夢の思い出の大事な場所で、男は喫茶店に入ってホットコーヒーを

一つ頼んで、どうしたものかと考えながら、そのまま深い眠りに入ってしまった。

 

男の見ている夢の中、遠くの方で凧が上がっている、凧の下には恰幅のいい男がいて、凧を操りながら聞いてくる

 

なぁ、どっちが勝つと思う 理性と本能 どっちが勝つと思う 

 

と、繰り返し繰り返し聞いてきては、返事の仕方次第で、タイプライターを使って古いコンピューターの中のオッズを操作している

 

男は恰幅のいい男に、あんたはどう思うのさ?と聞くと

 

恰幅のいい男は花火師達を呼ぶと空に向かっていくつもの大きな花火を上げた

 

男はそれに見とれてるうちに、恰幅のいい男を見失ってしまった

 

男はそろそろ夢から出ようと出口行きのバスに乗ってガタゴトと揺られていた

 

男は途中のバス停で乗り込んできた女がキレイで気になって仕方なくなった

彼女も出口まで行くのだろうか、そんなことばかり気になりながら、真冬の豪雪地帯の中を走っていくバスはひたすら次のバス停へと向かう

 

男は希望が欲しいと思った

 

バスの路線図を探しても希望は手に入りそうになかった

キレイな女はいつの間にか車内広告のポスターの中に入ってしまった

 

絶望した男はそのままバスから飛び降りて、夢の出口まで真っ逆さまに落ちていった。

 

夢から覚めると男は喫茶店に張り出されたオッズ表を見ながら、本能にかけることを喫茶店のマスターに伝えた。

 

マスターは暗証番号をテープで貼り付けた銀行のキャッシュカードを男に渡すと、結果が出たらこれを持って、また、来てくれと言う。男は店内にあるATMでお金を下ろし、喫茶店の会計を済ませた。支払いのいい客だとマスターは上機嫌で男を見送った。

 

男は今日の夢に必要な写真を撮ることを再開することにした。

 

林間学校のお土産物売り場の写真がどうしても必要だったので、小学校時代まで、少し飛ばして、土産物屋の前まで来た。必要な写真は土産物売り場の中でも、とりわけパウンドケーキが売られている場所で、男はそこを何枚もカメラに収めると、土産物屋を後にした。

 

土産物屋を出る際に、レジの後ろに貼られたポスターを見ると、いつかのバスで見た女が、また、今度は山菜を採りながら写真に収まっていた。

 

もう、忘れようと男は飛ばして、時間の中を泳いで、そろそろ今日の夢に備えた。

 

男は写真の入ったSDカードを耳の後ろに設置したカードリーダーに入れると、自分の意識レベルを落としていった。

 

男の見ている夢の中で男は山深い小さな渓谷で暮らしていた。

 

何があったという人生でもなかった。

 

何をしたともいえぬ人生ではあった。

 

ただ、穏やかに男は夢の中で暮らしていた。