大いなる帰還【豚山肥太】

豚山肥太の詩と小説を綴るページ

ある人生【超短編小説】

 

雨を自宅周辺まで予約すると、僕は家庭菜園のコンピューターを開けると、いくつかのカードを入れ、あと2,3時間後にやってくる雨への準備を整えた。

 

そろそろ、家庭菜園のプログラムも古くなってきているので、現行バージョンに最適化させて書きかえないといけないと思いながら、プログラムを打ち込んだカードを整理していた。

 

大きなバスに乗って、遠くの山頂付近にある花畑を見に行った、途中、とても柔道の強い道場があって、そこでは厳しい稽古が行われていた、僕はその中でも、日本有数の強さを誇る道場の生徒が怖くなって、道場の表に出て、100%のオレンジジュースを飲んで呆けていた。

 

道場の表では、映画の予告編がランキング形式で上演され、次々に現れるスターと、そして、桁がどんどん増していく興行収入の額に心躍らせていた。最近は寝る前に、岩井俊二のLove Letterばかりかけて寝るので、何か新しいものを見ようと思い。僕はその足でTSUTAYAに向かった。

 

いい映画は沢山あったけれど、これといって見たい映画もないので、グラビアアイドルのDVDを借りることにした。だけど、どうやらそういったDVDはレンタルしているものが少なく、仕方なくお年玉を下ろして、2枚、グラビアアイドルのDVDを購入した。

 

家に帰ると、一目散にDVDプレーヤーの前に行き、グラビアアイドルのDVDを見た。流行の名前をつけられた女の人が、映っていた。1枚目も2枚目もさして内容が違うというものではなかった。

 

頭の中をイメージがよぎる、世の中のどこかに、グラビアアイドルが生まれてくる泉があって、次から次にグラビアアイドルは生まれてきては、水着になって、はしゃいでは、気がつく頃には僕らの視界からは消えて、そして、また、無尽蔵にグラビアアイドルは生まれてくる。

 

生まれてきては宿命のように、理不尽としか言い様の無い水着を着てはしゃいでは、消えてきく。

 

僕は新しいバージョンに自宅のコンピューターを更新すると、カードに打ち込んだプログラムを書きかえた。家庭菜園には雨が降っている。僕は玄関のポストを除くと、何枚か入っていたチラシを眺めた。昔の古いゲームから、数年前に出たゲームまで1台の端末で遊べることをうたったゲーム機のチラシが入っていた。一瞬、興味をそそられたが、自分には扱いきれないと諦めた。何しろ、グラビアアイドルのDVDを買ったばかりでお金もない、チラシに混じって手紙が一通入っていた。

 

手紙はかつての同級生からのもので、僕がケータイ電話を初めて買った時に設定したメールアドレスの事を笑ったことなんかを謝罪していた。僕自身、すっかり忘れていたことで、何も怒っていないことを示す為に、僕は中森明菜の動画を詰め込んだDVDを同封して、同級生に手紙を書いた。

 

Love Letter の主演は中山美穂だった事を思い出しながら、同時に、宮沢りえの旦那は森田剛であることも確認し、妙に納得しては、手紙を書き終えた。書き終えて、手紙を出しに行く道すがら、男が商店の前に立って、何やらゲーム機を売っている。これで、数世代前のゲームなら全て動作することを売りにしたチラシで見たゲーム機だった。僕はそれが欲しかったが、お金のないのはどうしようもない。ポケットからデジタルカメラを取り出すと、男に頼んで、写真を何枚か取らせてもらった。

 

郵便局まで行って、手紙を出すと、僕はいくつかの手紙を出した同級生が昔言っていた事を思い出した。今では僕でも知っているが、当時は全く理解できなかった洋楽の有名なミュージシャンの固有名詞を思い出しながら、僕は帰宅した。

 

同級生とともに歩いた通学路の事を思い出しながら、僕は今日もまた、岩井俊二のLove Letter を再生させた。いつかまた、お金が貯まったら温泉に行こう。そう思いながら、眠りについた。僕の眠った部屋は、僕が深い眠りに入ると、コンパクトに折りたたまれて、巨大な図書館の中の本棚に収まった。誰かが見るということはなかったが、僕は人生を本棚の中で、暮らしている。

 

図書館の外では誰が予約したわけではない雨が降っている。

人生に穏やかな時間がやってきていた。