2020年と2021年の豚山肥太のことのすべて

豚山肥太による詩と小説を綴るページ

優しさ

 

悲しさの先に

 

涙の後に

 

咲く花は何なのだろう?

 

答えなんてないさ

 

永遠に問い続ける

 

あの頃、あの人が優しかったねって思い出して

 

どうしようもない時間の中

 

空を見上げている

 

冷たい風が服の隙間から入って

 

僕はこの街へ来た頃の事を思い出している

 

優しい人がいたな

 

沢山、いたな

 

時間はまるで手品のように優しい人達を奪っていった

 

空にかすかに浮かぶ雲はあの人だろうか

 

問いかける人もいない

 

アスファルトの上で

 

僕、何したいんだっけ?

 

と繰り返している

 

いつかは、これから優しい人とこれから飲みにいくところさ

 

いつかは、これから優しい人と劇場に行く予定さ

 

ねぇ 時間はどうして、いつも、そう残酷に優しい人を

 

ねぇ 時間はどうして、いつも、優しい時間をここに、とどめてくれない

 

寂しさの先に誰かいるのかな?

 

ヒリヒリとするむき出しの神経はこの冬の寒さにあまりに辛すぎて

 

空を見上げたまま涙が止まりそうにもないよ

 

どこに行けばいいんだろう?

 

どこのベッドはあたたかいんだろう?

 

晩ごはん代足りるかな?

 

優しさはどこで売っているんだろう?

 

今夜もきっと寂しさを抱きしめて眠る

 

答えなんてものはないのさ

 

問い続けることそれですべてさ

 

優しさなんてどこにも売ってないさ

 

さぁ、おやすみ

 

やがて、孤独に紛れて夢が走り出す

 

 

寂しさ

 

夕暮れにまるで街角のコンクリートになった様な気分で吹く口笛。

母は今日も寝たきりで、病の床。この病気は移るかも知れないと、どの医学書にも最新の論文にも無いことをうわごとの様に言っている。

汚れちまった悲しみに、中也はそう言葉にした。

なぁ、この胸の寂しさよ

君に名をなんと呼ぼう。

 

母を車椅子に乗せて病院に行った。途中で母ごと見失って、医薬品と医学書だらけの建物にいた。確かあの薬はと、母を治せる薬を建物を上から下まで探して、いくつもの医学書の中をさまよった。

 

とても、小さな魚が今泳ぎ始めた。泳ぐことなら誰にも負けないさ。そう、うそぶいて、さっそく川の流れにやられながら、どこへ行こう?どこへ行く?

 

胸の中をカラカラと鳴っている小石達、ねぇどこで僕は母さん、見失った。

暑い夏の日と田畑の続く道とコンクリート、誰かが呼んでいるよ。

あの頃の僕が呼んでいるよ。どうして母さん、この旅行には一緒じゃないんだろう。

 

幼い頃のある夜のこと、悪酔いした母にからまれている。僕はどうしていいかわからない。今もどうしていいかわからない。

 

なぁ、この胸の寂しさよ

君に名をなんと呼ぼう。

 

マザーって叫んだって届かない、おかんって叫んだって追いつかない。

どこまでもあなたはあなたで、意味など問わずに生を肯定している。

 

嵐の時にはいっそ身を流れに任せてしまうのも一つ。

どうしようもない時には、どうもこうもしようがないのさ。

 

やがて来る朝の日を待ちながら

寂しさに耳を傾けて眠る。

いつか、こんなじゃなかった人生から、遙か遠く今日を見つめながら。

 

なぁ、この胸の寂しさよ

君に名をなんと呼ぼう。

 

 

SMILE

 

この街で一番高い塔の様なビルに貼り付いた巨大な液晶画面では、僕の知らない若い異性達が時代を羽織って、新しい文化を歌っている。僕はヒノマルを二枚、屋台の店主に渡すと、出来上がったばかりの、ネギとてんかすだけのうどんをすすった。

 

僕がうどんをすする屋台では、街を占領した様に流れる新しい文化に対抗するのか、官能小説を朗読するだけのラジオ番組から卑猥な言葉がずっと漏れていた。屋台の親父は近所の中高生達からは、普段の二倍の値段のヒノマルを取って、やはり、ネギと天かすだけのうどんを売っていた。そんなに大きな屋台でもなく、高校生でも三人、四人腰掛けるのがやっとのその屋台に、市内の男子中高生のほぼ全員が行列を作ってその屋台に並んでいた。

 

僕は、中高生達に場所を空けようと、うどんをすすりおえたが、やっぱり、もうちょっと、官能小説の朗読が聞きたくなってなってきて、お冷をおかわりして、できるだけゆっくりチビチビ飲む作戦にでた。僕がそうこうしていると、うどんをすすっていた学生の一人が屋台の親父に学校の制服を掴まれた 。何があったんだと屋台の親父に僕は聞きながら、ラジオのボリュームを大きく上げた。

 

遠くの方で長時間並んでいる学生達から、黄色い歓声が上がった。屋台の親父は、「これですよ。」と、学生の制服の前を開くと、制服の下からは、お稽古ごとに最適そうなテープレコーダーが、いくつも、まるでテロリストが腹に巻くダイナマイトの様に、身体中に巻かれてあった。全てのテープレコーダーの録音と再生のボタンはへこんでいて、だいぶ考えてみて、ヒントとかももらいながら、おそらく官能小説の朗読を録音するためにそんなことをやっている事に気がついた。

 

僕は、更に屋台のラジオのボリュームを上げた、遠くの方の行列からまた黄色い歓声が上がったが、屋台の親父も闇でやっている商売だ。最近は取り締まりが厳しくなっている。チャンネルを変えるぞと、屋台のラジオのチャンネルを、親父が趣味でやっているYouTubeチャンネルに合わせた。YouTubeチャンネルからは、屋台の親父がスマートフォンで撮影したTVのバラエティ番組が、色々いじって流されていた。

 

市内のほぼ全ての男子中高生達は、一致団結すると、見事に動きを合わせて、大規模な人文字を作り、夜空のむこうの、宇宙人との交信を試み始めた。彼らは人文字で、繰り返し、「叶姉妹」の文字を送っていた。

 

屋台の親父は再生回数を僅かにかせいで、LINEで宇宙人に連絡を取ると、光に包まれ、屋台丸ごと、宇宙に向かってトンズラしていった。

 

僕は、身体中にテープレコーダーを巻いた学生に、余っていたガムを二枚くらいあげたりして、官能小説が録音済みのテープレコーダーを一つ譲ってくれと、学生に懇願した。

 

学生は僕ににじり寄り、僕のポケットに手を入れて、財布を抜き取ると、そこから、深田恭子のテレホンカードを抜き取ると、僕の手に財布を戻し、テープレコーダーからテープを取り出し、僕の手の上に置いた。彼も又、LINEで宇宙人と連絡を取ると、光に包まれ、そのまま歴史から姿を消した。

 

一致団結して、「叶姉妹」の人文字を宇宙に向かい発信していた男子学生達も、一部の生徒が、Wi-Fiルーターのパスワードを教えてもらったもらってないで揉めだし、そのまま、それぞれの住処へと散り散りに。

 

屋台と親父とテープレコーダーの学生が去った後には、一人の男子学生と僕だけが、たたずんでいた。

 

空が神々しく光り、叶姉妹が降りてきた。

 

僕と学生は、無礼の無いように、衣装も正装に着替えて、叶姉妹を迎えて、四人で手をつなぎ、円の形になりながら、些細な事で笑い合った。

 

スタッフロールが流れ始めた事を確認しながら、エンディングテーマのSMILEの「明日の行方」が流れている

 

この街で一番高い塔の様なビルに貼り付いた巨大な液晶画面では、僕の知らない若い異性達が時代を羽織って、新しい文化を歌っている。

 

スタッフロールの最後のクレジットも流れて、映画館の中は明るくなる。誰かはパンフレットを買ったり、グッズを買ったり、そして、誰かはエンディングの曲を調べてさっそく購入していたりもする。

 

「明日の行方」を

 

劇場の最中で

 

 

 

 

 

 

 

 

今日も気だるい眠気の中を一時間目から突っ走り、というか存分に睡眠を確保しながら、本日の終わりの6時間目を迎えながら、帰宅したら続きをやる予定のゲームの事を考えてワクワクと興奮だけしていた。

 

昨日までに進んだゲームの中で、確保したもの、広げられたもの、それらをもとに今日はどう展開していこうかと、頭の中に展開図は広がるばかり、嗚呼、早く帰りてぇそれだけを考えていた。

 

僕の目線は教室の外の空を見て、そこにゲーム画面を浮かべては、ニヤニヤとしていた。

 

学校が終わり帰宅すると、ゲームに夢中になり、予習も復習も宿題にも手をつけず、12時を回ってからは、深夜に放送される各チャンネルの映画枠、若手芸人のラジオをハシゴして、眠りにつくのはたいてい深夜3時を回ってからと決まっていた。

 

朝6時には起きないと学校に遅刻する事になるのだが、おかまいなく、毎日の様に遅刻してはいかに勉強しているふりを保ちながら授業中に眠るかといった、バレない姿勢の研究ばかりしていた。

 

その日も、やはり眠たくて、うとうととしながら、3時間目を終えた頃に、中学校で同じ学校だった同級生の女子に連れられて、クラスのあまりよく知らない同級生が僕の机に珍しいお菓子を置いた。同じ中学だった女子も何の説明もなく、二人して、また、僕の机から遠のいていった。

 

僕はその珍しいお菓子を、手に取ったがやはり何かわからず、鞄の中にしまった。

なんで、こんなに眠いんだというということへの研究発表が僕の頭の中で行われる中、妙な不整脈が起きている自分を隠すことも出来なくなっていた。

 

恋愛感情を形成するにはまだ、ほど遠く、同級生からものをもらうという、もっと、原始的な動物的な本能が僕の頭の中で、より人間らしい考え方、感情への形成へと、自分の人生始まって以来の出来事に、各細胞達が、持ち場で与えられた使命を存分に果たしながら、僕の心の中はタイフーンが訪れていた。

 

帰宅して、録画しておいた「ザ・プレイヤー」のグレタ・スカッキを見ながら、自分の憧れの対象と突然現れた同級生の間を磁石の様に近づきながらそれでいて反発するような感情が交錯していた。

 

僕は途中からグレタ・スカッキには降板してもらい、できるだけ色んな感情をお菓子をくれた同級生に寄せていこうとしていた。どこか、自分を自分で騙すような背徳感を覚えながら

 

ただ、まだよくわからんお菓子をくれただけなんだよと、自分に水をさしながら。

 

その夜、思春期の妄想列車は停車することを知らず真夜中を駆け抜けた。

 

自分からは上手くお菓子をくれた同級生に話しかけられず、当然の如く、同じ中学だった女子に話を聞くところからはじめ、そこでわかったのは、お菓子は僕だけに配られたものではなく、恋愛のはじまりという事でもなかったこと。

 

僕はその日、いつもより二倍のコーラとスナック菓子を買い込み、自分の部屋の中でアウトローへの道を突き進み、グレにグレた。ゲームの中でだっていつもは見せない非道な敵の倒し方は人類の残酷な歴史に名を刻もうかという程であった。

 

そのまま風呂にも入らずに、ベッドに身体を放り出して、僕は久しぶりに午前零時を回らずに眠りについた。

 

翌朝、朝風呂に入って、シャンとして、自分の胸の中にあるものに気づく、真っ直ぐな一本の道の向こうに、お菓子をくれた同級生がいる。そこに向かって、僕の気持ちは何ら隠し立てせずに、

 

好きだ

 

という気持ちで向かっている。映画のタイトルを借りさせていただければ「初恋の来た道」。そう、それがしっくりくる。

 

季節は春をとおに越して、秋深くTVのニュースは紅葉で染まる景色を、日本全国をバトンタッチしながら、伝えていた。

 

僕は恋をしていた。