大いなる帰還【豚山肥太】

豚山肥太の詩と小説を綴るページ

Storytelling

朝、男達は稼いでくるぞと拳を上げて家を出る。誰もそのチケットが大当たりしない事は知っている。だけどさ、続けるんだ。いつだって過程の中に私達の墓標はある。

苦悩せよ。100万年経ったって、そうして私達は生み出している。作り出している。

物語はいつも大海を知った所から始まりだす。

 

怯えるな。

 

深夜にDVDプレイヤーの残り時間を見ている。くだらない映画だからこの辺で見るのはやめにしようかしら、もしかして、ここから面白くなったりとかあるの?

何にも期待してないわよ。ただ、あいつの顔が爬虫類に似ているってことだけ。

爬虫類って幸せとか不幸だとかわかんないんでしょ。

 

私、ラブレター書いたの、沢山ラブレター書いたの、あいつに。

きっと私、幸せなんだって感じるために。

ままごとみたいってわかってた。

だけど、幸せになってみたかったの。すごく、すごく。

 

男達は疲れ果てて、ギシギシと骨と筋肉を酷使して、最後の力で雄叫びを上げると

ビールのシャワーの中に一体、また一体と消えて行った。

結局、噴水みたいに派手なサーバー持って来て、嗚呼、サイコーだって。

 

何もかも忘れてしまっていい。今の微かな胸の高鳴りが、全てのはじまりだ。

今日稼いだ分は使い切らない様にだけ用心して、上機嫌で帰る、家族のいる我が家へと。

今夜は眠りたくないの。海へ行こう。夜の誰もいない海へ。きっと私達、お似合いよ。

 

夜は深く澄んでいく、どこかで誰かが笑っていたら、どこかで誰かが泣いている。

どこかで誰かがせがんでいる。何かお話してよ、と。

どこかで誰かが頼んでいる。話を聞いてくれないか、と。

 

一度、澱んだ河も、時のうつろいのうちに、澄んだ清流へと戻る事もある。

そこは必ず大海と繋がっている。

 

夜のハイウェイをアメ車が何もかも吹き飛ばす様に駆けて行った。