大いなる帰還【豚山肥太】

豚山肥太の詩と小説を綴るページ

Sleeping Golem と dwarves

この町にはかれこれ50年近く眠り続ける男がいる。

男は大きな身体をしていて、眠りに落ちるまでは、凄く優秀な事で有名で、勉学に関する事では、今や町というより都市と呼ぶ方が自然な程、発展したこの町でも彼の記録を破るものは現れていない。

 

男には色の白い、出来のいい妹がいて、海外の有名な大学で新しい学問の教授を務めて、世界的な発明や賞をもらい揺るぎなき名声を手にしていた。兄が眠り続けているとの知らせを聞いた彼女は直ぐに日本に帰ってきて、部屋の掃除や今まで滞っていた支払い、これから払わなければならない支払いが滞りなく行われるように、全て準備して、ある日、どこから現れたのか小人3人に家と兄の事を任せて、そのまま失踪した。

 

世界的な権威だった彼女の失踪は大事件になった。連日、マスコミは彼女の髪の毛の先から、つま先まで、報道すること止むことを知らず、おかげで、彼女が勉強する為に使っていた参考書から学術的文献まで、飛ぶように売れた。

 

3人の小人達が彼女なのではという憶測も当然のごと流れたが、小人達が映像機器や音響機器の世界的なメーカーの大株主になり、メディアの世界を牛耳ってからは、その話はもはやタブーとなりアンダーグラウンドに沈んだ。

 

彼女が失踪する前に撮られた映像、写真、プリクラを偶像として崇拝する人達が現れ始め、やがて、彼らは体系的な宗教として、日本ならず、世界的に広がっていった。

 

新しい学問の世界では彼女以降、その高すぎたレベルゆえに、後継者が現れることなく、これからの地球を救う手だてのまさに萌芽がそのまま冷凍保存されたようで、これまでもこれからも問題を抱えつづける地球と人間という動物への処方箋、希望、兆し、全て彼女はこれから更に形にする所で姿を消した。

 

地球は回る。この今も回る。残酷な事があろうと、美しい事があろうと、回ることをやめることはない。沢山の問題が生まれつづけて、その問題の解決に挑む人も沢山生まれつづけた。

だけどビックウェーブの様に、人類はなす術のない程、痛烈で未曾有の問題は起き続けた。

 

眠り続ける男も年が100歳を越えた頃、その年齢にしてはありえない程、立派な体躯をして、肌もまだ30代と言ってもおかしくない。頭髪と髭は定期的に小人達が剃っていたが、それでも毛量は抑えられなった。小人達は男が目を覚ました事に驚く事なく、既に用意していた男の為の衣類を着せて、男は家から出て、そのままどこかへといなくなった。

 

男が家を出てから、少しして、男の妹の働いていた大学に電話があり、電話を取った受付の血圧が急に上がり、それから瞬く間に、噂が広まり、彼女に関連した企業や拡大した意味での関連銘柄の株価は急騰した。冗談交じりの愉快な挨拶とともに、彼女は再び、新しい学問の世界に戻ってきた。男が出ていった家にいたはずの3人の小人達も姿を消していた。前回の教訓を忘れたマスコミは、メディアの形に囚われず、彼女と3人の小人達に関するありとあらゆる憶測を流しつづけた。

 

時は流れていたのだ。それを忘れてはいけなかった。

 

株式市場の断続的に起こるシステム障害。原因が特定できないままに、世界の3分の2のマスコミの上場、非上場に、関わらず会社組織としての価値を失う事象が起き続け、もう誰も何も言わなくなった。

 

彼女は巨大な開発で使われる重機の様な大きくて、生まれたばかりの赤ん坊のように繊細で柔らかく、世界のあらゆる事、プロブレム、転校先の中学で一発目の自己紹介でかますボケ、全てをひとつづつひとつづつ解決していった。

 

彼女は組織化の必要性も感じ、大学という場所も離れて、

 

SOUIUMONONI

 

というチーム、巨大で強大な問題解決集団。を率いて、あらゆる絶望に希望を灯そうと生涯をかけて挑んだ。

 

水を巡る問題に対する世界的なアプローチの中に、いつか姿を消したはずの男がいた。

この問題に対峙する前にも、数多ある問題解決の現場に現れては八面六臂の活躍を見せ、何しろその大きな体躯で一度見たら忘れる者はいなかった。彼は名前を聞かれると

 

WATASHIWANARITAI

 

と答えていた。いつしか、妹とともに、いつしか、兄とともに、二人は道を共にし、歩み始めた。

 

3人の小人は今ではパチモノからテーマパークのグッズショップまで仲良そうに売られている。

 

 

案外、どこにでもいるのさ