大いなる帰還【豚山肥太】

豚山肥太の詩と小説を綴るページ

暑さによりて

八月が成虫になる折、雨は足音を潜め、風のない季節が流れていた。

 

僕は極めてよくこの地球にいる人間というやつで、ご飯を食べる為に営業マンをしている。次の営業先へと歩みを進めながら、止まらない汗に危険さへ感じながら、ポカリスエットのペットボトルを唇に当てた。

 

最近は暑い、日陰や風があると少しマシだが、それでもこれは尋常じゃない暑さだ。僕にはもう、ホット!ホット!を連呼する藤井隆が蜃気楼の様に、はたまたテレビでたまに同じCMを二回連続でやるやつの様に見えてしまっている程、しこたま暑さにやられている。営業先の道すがらも二台、救急車とすれ違った。その度、熱中症による搬送かと勝手に連想していた。

 

汗をなんとかしたい、衣類を着替えたい。スーッとしたい。

年収1000万軽く越えたい。

 

僕は公衆電話を見つけ、ここらにある銭湯の名前と電話番号を教えてもらい。片っ端から、携帯に番号を登録した。そして、また道を急いだ。急に日陰になったかと思うと、巨大な銭湯があり

 

銭湯バベルとだけ書かれていた。

 

僕はバベルに入り、近頃価値が高騰している金の延べ棒100gを番台に支払い。タオルと小さなボディソープとシャンプーをもらい、銭湯の中を見回した。

 

僕の視覚が捉えた銭湯の中には、この程刷新された内閣の閣僚が一堂に会し、皆で和気あいあい、試合の後に銭湯を使う大学ラグビーラガーマン達かの様であった。

 

皆、体力自慢なのか、お風呂で自分がいかに泳ぐ事に長けているかを誇示しあい、暴れるし、水遁の術をしる者もいるし、流しそうめん始めるものもいるし、しっちゃかめっちゃかだった。

 

そのうち、シャンプー類を持ち込みで来たとある閣僚の柿渋ボディソープがダブのボディソープになっており、とある閣僚は猛烈に怒り、ブレーンを集めて、官僚の力も多分に借り、横断的に各派閥に根回しを行い。野党対策も万全を喫し、柿渋ボディソープをダブに変えてしまう事を禁止する法案を提出し、衆参両議院とも可決した。

 

ただ、銭湯でその時、残り少ないアイスを巡る血で血を洗う争いや、アイスの実はアイスなのか実なのかという議論、その最中に起きた銭湯の扇風機の取り合い、数名の負傷者を出したマッサージチェアの取り合い、マッサージの強度の他者の操作による嫌がらせなどについては法案化の動きどころか、箝口令が敷かれた。

 

ただ、銭湯の番台がシネマカメラでそれを撮影しお茶の間のサンテレビの電波をジャックし、そのまま流そうとしたが

阪神戦の野球中継の最中だったので諦めざるをえなかった。

 

 

我々、人間は憎しみ合いながら今日もこの地上の上に君臨し、よりよくという言葉よりより多く富を得ようと数多の生物達に人間に都合のいい生命と都合の悪い生命に分けて覇権を握っている。

そして、それでいながらも今日も高らかに愛を叫んでいる。

 

 

なんだか、すごく、すごく遠くの景色を見ているよう

いつか来たのか、いつか訪れるのか

 

 

僕が汗を流し終え、着替えていると、番台が僕に話しかけた。

 

「愛と平和もいいが、どうだろう?やさしさから始めてみないか?」

 

僕は頭の中でエレキギターをかき鳴らしながら、何十万のオーディエンスをイメージして、うだるような暑さの中へ、踏み出して行った。