大いなる帰還【豚山肥太】

豚山肥太の詩と小説を綴るページ

今日のすべて【超短編小説】

TVの中ではチャンピョンがたかだかと拳を上げて歓喜の中にいる

 

いつか、その場所に行くんだと僕は決めて

 

ほてった魂をかかえて、走りこみに向かった

 

 

深夜を回っても原稿は完成せず、政治的な政府の中の政治的な女と男の政治的な話をまとめるのに、苦慮していた、言葉が足りない、資料が足りない、決め手に欠く情報がループしている、結果、朝方に入った一報でウラが取れて、原稿は完成した。

 

庭に飼っているプテラノドンの足に原稿を巻きつけると、編集部宛にプテラノドンを空に放った。

 

外はすっかり朝で、庭の前をジャンボジェット機が屋根すれすれに低空飛行しながら飛んでいる。市役所行きの始発のようで、スーツを着た男や女が何人もジャンボジェット機に必死にぶら下がっていた。

 

僕はクラウドサービスに上げていた母をダウンロードすると母の日のお祝いをして、また、アップロードして、今日、やるべきことのタスクをこなしていた。

 

母は重量上げのチャンピョンになるのよとご機嫌だったが、腰をいわしてしまうからと、YouTubeのおすすめのストレッチの動画を教えておいた。お礼にこれをあげるわと、食べさしのチラシ寿司をくれた。むげにもできないので、お礼だけいって、瞬時に母をクラウドに上げた。

 

編集部から電話がかかってきて、多少書き直されるものの、これでいいとのことで、安堵した。原稿料はプテラノドンの足にくくりつけて送ると言うと、今回はとびきりはずむぜと、念を押された。

 

僕はボーリング場によってストライクを3つ出すと、空虚な今の暮らしに胸がかさんだ。

シャンプーには少しお金をかけ、カセットテープで音楽を聴き、古いアメ車に乗っている。

何もチャンピョンじゃない、何もチャンピョンじゃない。

 

編集部からプテラノドンが足に包みをくくりつけられてかえってきた。

 

包みを空けると、中にあったのは黒こしょうだった。

高く売れると、メルカリに出品して、換金を急いだ。

 

興味を持ったらしい、アカウントが連絡を取ってきて、特別なものと交換してくれと言ってくる。なんだ?と聞くと、チャンピョンと答える。悪くないと僕は思い。交渉成立し、

黒こしょうとチャンピョンを交換した。

 

古いビデオテープの中、日本がボイコットするはずだったモスクワオリンピックの女子重量挙げの決勝で、母が世界新記録を出して、金メダルに輝いている。

 

僕は悪くはないと、眠気も隠さずにベッドに倒れ込んで少し眠った。

遠く飛行機の飛ぶ音が聞こえていた。