大いなる帰還【豚山肥太】

豚山肥太の詩と小説を綴るページ

つづく

第一集団ははるか遠く僕はそれでも走っていた、真夜中を、真っ昼間を、濁った海の藻屑の中を、ただ己の中にある前へと向かう推進力だけを頼りにして、ひたすら走っていた、朝焼けの道路に規則正しく並んだ街灯を数えては、もう一つ、もう一つ、永遠に終わらないかも知れない旅路を止めるわけにはいかなかった。

 

第一話は女Aが現れた、女Aは象徴の様に現れてきた。30を過ぎても、僕の中では女性とはつまり、女Aだと頭が勝手に解釈しているようで、それはコントロールの効くものではなかった。

 

新しい都市計画が進む中、僕は実家に帰ろうと、実家付近のエリアのエレベーター乗り場から実家へ向かいエレベーターに乗り込んだ。エレベーターはどんどん上昇すると、エリア内のいくつかの建物へと人を運んだが、僕の実家へ寄ることは無かった。乗るエレベーターを間違えたかと思っていると、学生時代がやって来て、僕は睡魔の中、試験の為の暗記に必死だった。

 

いくらやっても覚えられない物理の方程式やいくら覚えても終わる事のない英単語の中を、どの方程式を使っていいのかもわからない数学の問題を前にしながら、時刻はもう早朝4時、あと、5時間もしないうちにテストが始まる。

 

試験前には少しでも寝た方がいいとは知りつつ、僕は徹夜で学校へ向かった、その頃はまだ、都市計画のまだの頃だから、歩いて駅へ行き、そこから電車に乗って学校へ向かった。

 

学校へ向かう道の途中で、僕はマラソンの集団に巻き込まれて、そのまま、マラソンに参加することになった。女Aはそのマラソンの集団の中にいたが、僕もあまり上手くも喋れずに、どんどんと女Aとの距離は開いた。遠のく女Aに向かって、僕はそれしか自分に主張できるものがないような感覚で

 

僕は北西高校です。僕は北西です。

 

と叫んでいた。再び走り出した僕は、北西高校が何かも、どこにある高校かも、自分は全く知らないことに気づき始めていた。

 

僕は北西高校ならという理由で、近くのコンビニエンスストアで働き始めた。昔より客の注文が多くなったのか、パンは粉をこねるところからはじめ、米は釜で炊くところから始めないといけなかった。全部レジに置いてやるので、一人できりもりするのが、大変だった。第二話の女Bが現れたが、コンビニ内でのヒエラルキーは僕よりはるかに高く、話す機会も無かった。ただ、女Aとともに、女Bは象徴的なものであるのは間違いなかった。

 

コンビニのレジは思っていたより大変だった、パンが出来上がる前の生地が欲しいと注文が入り、その生地もどんな状態でもいいと言うわけではなく、細かく条件が指定されていた。それを、どうレジで打って、お客さんに、売っていいかもわからなくて、変な汗ばかりかいた。

 

ご飯も人によって、好みにわけて、注文を受けなければならず、これもまた、売り方がわからず、凄く困った。バーコードを読み取るわけにもいかず、レジにはこちら側で設定した値段を入力する項目もなく、塩とコショウが一つまみづつ欲しいというお客さんにも対応せねばならず、既知のコンビニの接客との違いに思いやられた。このコンビニではパックのジュースを買っていくお客さんなど一人もおらず、たいていがイレギュラーな注文ばかりしてくるのだ。

 

へろへろになりながら接客していると、店の店長がコンビニの入り口の自動ドアに首を挟まれて、真っ青になっていた、僕はそれを見て、めまいがして、その場に倒れ込んだ。このまま気を失ってしまえたらそう思った。

 

目の前の景色が広がると、そこでは、バギーに乗ったゴリラが平然と穏やかなオフロードを夕陽を受けて走っている。

 

まるで、こうやって生きていくんだとも言われているようで、それがなかなかできない自分を扱いきれずにいながら、バギーに乗ったゴリラを見ていた。

 

バギーのゴリラは、こちらを向いて言う。

 

 

翼なら売っている。少し値が張るが空を飛ぶのはいい気分だ。

このバギーも売ってる店だったら紹介してやる。こう見えて全く運転技術がいらない、値段もそんなに高くはない。

 

僕はバギーのゴリラの話を途中から聞かずに、ため息をわざと大げさに何度もはいて、走り出すことにした。

 

朝焼けの街は、どこか空気も澄んでいて、これからはじめるにはなにもかも良かった。