寂しさ
夕暮れにまるで街角のコンクリートになった様な気分で吹く口笛。
母は今日も寝たきりで、病の床。この病気は移るかも知れないと、どの医学書にも最新の論文にも無いことをうわごとの様に言っている。
汚れちまった悲しみに、中也はそう言葉にした。
なぁ、この胸の寂しさよ
君に名をなんと呼ぼう。
母を車椅子に乗せて病院に行った。途中で母ごと見失って、医薬品と医学書だらけの建物にいた。確かあの薬はと、母を治せる薬を建物を上から下まで探して、いくつもの医学書の中をさまよった。
とても、小さな魚が今泳ぎ始めた。泳ぐことなら誰にも負けないさ。そう、うそぶいて、さっそく川の流れにやられながら、どこへ行こう?どこへ行く?
胸の中をカラカラと鳴っている小石達、ねぇどこで僕は母さん、見失った。
暑い夏の日と田畑の続く道とコンクリート、誰かが呼んでいるよ。
あの頃の僕が呼んでいるよ。どうして母さん、この旅行には一緒じゃないんだろう。
幼い頃のある夜のこと、悪酔いした母にからまれている。僕はどうしていいかわからない。今もどうしていいかわからない。
なぁ、この胸の寂しさよ
君に名をなんと呼ぼう。
マザーって叫んだって届かない、おかんって叫んだって追いつかない。
どこまでもあなたはあなたで、意味など問わずに生を肯定している。
嵐の時にはいっそ身を流れに任せてしまうのも一つ。
どうしようもない時には、どうもこうもしようがないのさ。
やがて来る朝の日を待ちながら
寂しさに耳を傾けて眠る。
いつか、こんなじゃなかった人生から、遙か遠く今日を見つめながら。
なぁ、この胸の寂しさよ
君に名をなんと呼ぼう。