大いなる帰還【豚山肥太】

豚山肥太の詩と小説を綴るページ

夜空の流星群

 

人間関係で上手くいかない事が重なって、この先の人生に絶望して、僕は殺されてしまいたいと思うようになった。自殺への衝動とほぼ同じであったが、口に出すと言葉は、殺されたいになっていた。

 

僕はなんとか回っていた家族の中で、父にも母にも殺してくれと繰り返し言った。ある時、父は登山用に使うナイフで僕の手の甲を浅く刺した。僕は痛みで泣いたが、口から出る言葉は変わることがなかった。

 

母にも何度もしつこく殺してくれという事を言った。母は、製薬会社の作った薬とは、また別の範疇の様々な薬を僕に持ってきた。昔、母が落ち込んだ時に勇気づけられた本、母自身の人間関係で悩んだ経験、遠くのパン屋で買ってきた珍しくて美味しいパン。

 

弟はまだ小さかったが、何が起きているかは把握していたようで、TVで流行っているアニメの主人公の必殺技の構えまでやるものの、そこで僕に向かって必殺技をぶつけるわけでもなく、悲しい顔をしていた。ごめんなと僕が思い始める頃に、父が外ももう随分と暗いのに、今から出かけることを家族全員に告げた。

 

父は遊園地に行くという。こんな時間まで営業している遊園地は僕の住む地域には無く、いったい父はどこに向かおうとしているのかわからなかった。家族で父の運転する車に乗り込み、父は今日は特別だというと、アクセルを踏み込むと、僕らの乗った車は、夜空に向かってどんどん宙に上がり、まるで流星みたいに、街の上空を走って行った。

 

父は鼻歌を歌いながら、夜空の世界を僕たち家族に、殺してくれと言っていた僕に見せてくれた。

 

それから、小さい頃に一度だけ家族で食べて、とても美味しかった記憶のあるうどんすきを家族で食べに行った。

 

美味しいものを食べながら、天然の母を弟と一緒になって、突っ込んだりしてケラケラと笑っていると、僕はたぶん、今は幸せと言うに違いない。確信を持ってそう思った。

 

もう、あれからどれだけ月日がたったかわからないが、この街の夜空に星の見える日があると、あの頃の僕と、あの頃の僕の家族を思い出す。