2020年の豚山肥太のことのすべて

豚山肥太による詩と小説を綴るページ

化学

 

学生時代の人間で集まって5人対5人で婚活パーティーが行われた、皆、ここいらの島々から出てきていて、僕は丁度、三つ目の編入先の大学の単位も満たせぬままに、あちこち、アルバイトをして食いつないでいた。

 

初日に、パーティー会場の島で買った新聞では僕の人気順位は5人中最下位で、まぁ、そりゃそうだろなという当たり前の感情と、どこかこの島のお茶の先生に似ている二番人気の女の子の事が気になって仕方なかった。

 

その頃の僕らの住む世界では、色々な化学物質を主たる原因とした突然変異が、空間や、土壌、流れる川の水の中まで起こっており、僕らは常に、それらから生まれる動物でも生物でもない化学物質との戦いを余儀なくされていた。

 

それらは、最初は、形を持たず、色を持たず、匂いを持たず、突然、僕らの世界に浸食してきては、僕らの世界と彼らの世界の境界を曖昧にしていくことを繰り返し続けていた。僕らは婚活パーティーに参加しながらも、常にそのことに気を配っていた。

 

婚活パーティーは、最終ステージまで三段階のお見合いの席が用意されており、僕らはそこで、自己アピールに専念した。大きな島だったので、比較的、物資も揃っており、パーティーに用意された食事も、一応、豪勢と呼べるものになっていた。

 

二段階目が討論会で、どう考えても朝まで生テレビのセットの中に連れて行かれて、僕らは討論をする事になった。議題は忘れてしまったが、飛び入りで参加した。若手の論客が、人一倍大きいフリップに自分の意見を書いて出し、フリップの裏側でウエハースチョコを貪り食べていた。それは良くないと、若手よりはまだ年齢が上の論客と、女性の経済学者にやさしい口調でしつこく注意されていた。

 

新しいと僕は思いながら、僕はセットの外にある自動販売機でジュースを買って、一息ついていた。さっきの若手の論客がやってきて、自販機に「ペプシ2ケース」というと、自販機は「1300円になります。」と答えた。えらく安いなぁということと、自販機ってそんな使い方ができるんだという新鮮な太刀魚の様な思いが胸に去来した。再び討論会の会場に戻ったが若手の姿がなく、デニムでそろえた上下でコロコロに目一杯積んだペプシをひいた彼が、討論会の会場の大型テレビに映っていた。

 

僕も色々とやり方を変えないとと、思いながら、討論会もいつの間にか終わっていた。

 

今の所、確たる手応えもあった訳ではなかったが、最後のステージで、気になっていた女の子と記憶はあまりないのだが、どうやら上手くいったらしく、そのまま、カップルとして成立した。結婚はいいけど、まだ、大学も出ていない、そういった所の問題からとうぶんの間、どこに住もう等ということまで、現実的に決めなければいけないことが沢山あった。

 

そういった話をしている最中に、化学物質がまるで壁を抜けるように現れてきた。僕は近くにいたお見合いメンバーと一緒になって、水鉄砲の様なちゃちな光線銃で化学物質を中和させようとしていたが、あまり効かなかった。僕らの光線銃と今回の化学物質との相性が悪いらしく、あまり効果がないようだ。

 

一緒に戦ってくれていたお見合いメンバーもこれ以上遅くなると、島のスーパーマーケットが閉まって、美味しい食べ物の入手に困るからと、巨大化していく化学物質をほっておいて帰ってしまった。

 

僕はお見合い会場にあった掃除箱の中から、ワックスを塗る時に使うブラシを持ってきて、それを持ってして、巨大化して人間の描く鬼のようになって発光している化学物質と戦うことにした。化学物質を構成している物質を、まずは計測し、そこから、その物質達をバラバラにしてしまえる物質をもってして戦う算段であったが、計測の前に、力で圧倒的に化学物質に振り回されて、最大限にブラシも伸ばしてみたが全く意味がなかった。

 

僕が化学物質と格闘している間に、視界に入ってきたのは、射止めたはずのあの子が、絵に描いた様な黒い革ジャンのリーゼントの男とたき火を囲んで、ゴーゴーを踊っていた。二人の上には電飾のハートが設置され眩いばかりに、相思相愛を周囲の人達、そして、僕に伝えていた。

 

僕はなんだか、嫌気がさして、化学物質からも逃げ出して、まだ、単位を取り終えていない北海道の大学へ向かった。大学へ向かう列車の中で、新聞を買うと、一面では、あのリーゼント男が巨大化した化学物質どころか、僕らの住む世界が悩まされてきた化学物質の侵攻と、この世界で不均衡に崩れた様々なバランスまでも全て解決してしまった事が報じられていた。

 

僕の事もやはり最下位という事だけが、小さな見出しと、その日の新聞四コマで紹介されていた。

 

まぁいっかなと僕は呟くと、モテる為のハウツーの書かれた安い電子書籍を山ほど買った。