大いなる帰還【豚山肥太】

豚山肥太の詩と小説を綴るページ

 

今日も気だるい眠気の中を一時間目から突っ走り、というか存分に睡眠を確保しながら、本日の終わりの6時間目を迎えながら、帰宅したら続きをやる予定のゲームの事を考えてワクワクと興奮だけしていた。

 

昨日までに進んだゲームの中で、確保したもの、広げられたもの、それらをもとに今日はどう展開していこうかと、頭の中に展開図は広がるばかり、嗚呼、早く帰りてぇそれだけを考えていた。

 

僕の目線は教室の外の空を見て、そこにゲーム画面を浮かべては、ニヤニヤとしていた。

 

学校が終わり帰宅すると、ゲームに夢中になり、予習も復習も宿題にも手をつけず、12時を回ってからは、深夜に放送される各チャンネルの映画枠、若手芸人のラジオをハシゴして、眠りにつくのはたいてい深夜3時を回ってからと決まっていた。

 

朝6時には起きないと学校に遅刻する事になるのだが、おかまいなく、毎日の様に遅刻してはいかに勉強しているふりを保ちながら授業中に眠るかといった、バレない姿勢の研究ばかりしていた。

 

その日も、やはり眠たくて、うとうととしながら、3時間目を終えた頃に、中学校で同じ学校だった同級生の女子に連れられて、クラスのあまりよく知らない同級生が僕の机に珍しいお菓子を置いた。同じ中学だった女子も何の説明もなく、二人して、また、僕の机から遠のいていった。

 

僕はその珍しいお菓子を、手に取ったがやはり何かわからず、鞄の中にしまった。

なんで、こんなに眠いんだというということへの研究発表が僕の頭の中で行われる中、妙な不整脈が起きている自分を隠すことも出来なくなっていた。

 

恋愛感情を形成するにはまだ、ほど遠く、同級生からものをもらうという、もっと、原始的な動物的な本能が僕の頭の中で、より人間らしい考え方、感情への形成へと、自分の人生始まって以来の出来事に、各細胞達が、持ち場で与えられた使命を存分に果たしながら、僕の心の中はタイフーンが訪れていた。

 

帰宅して、録画しておいた「ザ・プレイヤー」のグレタ・スカッキを見ながら、自分の憧れの対象と突然現れた同級生の間を磁石の様に近づきながらそれでいて反発するような感情が交錯していた。

 

僕は途中からグレタ・スカッキには降板してもらい、できるだけ色んな感情をお菓子をくれた同級生に寄せていこうとしていた。どこか、自分を自分で騙すような背徳感を覚えながら

 

ただ、まだよくわからんお菓子をくれただけなんだよと、自分に水をさしながら。

 

その夜、思春期の妄想列車は停車することを知らず真夜中を駆け抜けた。

 

自分からは上手くお菓子をくれた同級生に話しかけられず、当然の如く、同じ中学だった女子に話を聞くところからはじめ、そこでわかったのは、お菓子は僕だけに配られたものではなく、恋愛のはじまりという事でもなかったこと。

 

僕はその日、いつもより二倍のコーラとスナック菓子を買い込み、自分の部屋の中でアウトローへの道を突き進み、グレにグレた。ゲームの中でだっていつもは見せない非道な敵の倒し方は人類の残酷な歴史に名を刻もうかという程であった。

 

そのまま風呂にも入らずに、ベッドに身体を放り出して、僕は久しぶりに午前零時を回らずに眠りについた。

 

翌朝、朝風呂に入って、シャンとして、自分の胸の中にあるものに気づく、真っ直ぐな一本の道の向こうに、お菓子をくれた同級生がいる。そこに向かって、僕の気持ちは何ら隠し立てせずに、

 

好きだ

 

という気持ちで向かっている。映画のタイトルを借りさせていただければ「初恋の来た道」。そう、それがしっくりくる。

 

季節は春をとおに越して、秋深くTVのニュースは紅葉で染まる景色を、日本全国をバトンタッチしながら、伝えていた。

 

僕は恋をしていた。