大いなる帰還【豚山肥太】

豚山肥太の詩と小説を綴るページ

SMILE

 

この街で一番高い塔の様なビルに貼り付いた巨大な液晶画面では、僕の知らない若い異性達が時代を羽織って、新しい文化を歌っている。僕はヒノマルを二枚、屋台の店主に渡すと、出来上がったばかりの、ネギとてんかすだけのうどんをすすった。

 

僕がうどんをすする屋台では、街を占領した様に流れる新しい文化に対抗するのか、官能小説を朗読するだけのラジオ番組から卑猥な言葉がずっと漏れていた。屋台の親父は近所の中高生達からは、普段の二倍の値段のヒノマルを取って、やはり、ネギと天かすだけのうどんを売っていた。そんなに大きな屋台でもなく、高校生でも三人、四人腰掛けるのがやっとのその屋台に、市内の男子中高生のほぼ全員が行列を作ってその屋台に並んでいた。

 

僕は、中高生達に場所を空けようと、うどんをすすりおえたが、やっぱり、もうちょっと、官能小説の朗読が聞きたくなってなってきて、お冷をおかわりして、できるだけゆっくりチビチビ飲む作戦にでた。僕がそうこうしていると、うどんをすすっていた学生の一人が屋台の親父に学校の制服を掴まれた 。何があったんだと屋台の親父に僕は聞きながら、ラジオのボリュームを大きく上げた。

 

遠くの方で長時間並んでいる学生達から、黄色い歓声が上がった。屋台の親父は、「これですよ。」と、学生の制服の前を開くと、制服の下からは、お稽古ごとに最適そうなテープレコーダーが、いくつも、まるでテロリストが腹に巻くダイナマイトの様に、身体中に巻かれてあった。全てのテープレコーダーの録音と再生のボタンはへこんでいて、だいぶ考えてみて、ヒントとかももらいながら、おそらく官能小説の朗読を録音するためにそんなことをやっている事に気がついた。

 

僕は、更に屋台のラジオのボリュームを上げた、遠くの方の行列からまた黄色い歓声が上がったが、屋台の親父も闇でやっている商売だ。最近は取り締まりが厳しくなっている。チャンネルを変えるぞと、屋台のラジオのチャンネルを、親父が趣味でやっているYouTubeチャンネルに合わせた。YouTubeチャンネルからは、屋台の親父がスマートフォンで撮影したTVのバラエティ番組が、色々いじって流されていた。

 

市内のほぼ全ての男子中高生達は、一致団結すると、見事に動きを合わせて、大規模な人文字を作り、夜空のむこうの、宇宙人との交信を試み始めた。彼らは人文字で、繰り返し、「叶姉妹」の文字を送っていた。

 

屋台の親父は再生回数を僅かにかせいで、LINEで宇宙人に連絡を取ると、光に包まれ、屋台丸ごと、宇宙に向かってトンズラしていった。

 

僕は、身体中にテープレコーダーを巻いた学生に、余っていたガムを二枚くらいあげたりして、官能小説が録音済みのテープレコーダーを一つ譲ってくれと、学生に懇願した。

 

学生は僕ににじり寄り、僕のポケットに手を入れて、財布を抜き取ると、そこから、深田恭子のテレホンカードを抜き取ると、僕の手に財布を戻し、テープレコーダーからテープを取り出し、僕の手の上に置いた。彼も又、LINEで宇宙人と連絡を取ると、光に包まれ、そのまま歴史から姿を消した。

 

一致団結して、「叶姉妹」の人文字を宇宙に向かい発信していた男子学生達も、一部の生徒が、Wi-Fiルーターのパスワードを教えてもらったもらってないで揉めだし、そのまま、それぞれの住処へと散り散りに。

 

屋台と親父とテープレコーダーの学生が去った後には、一人の男子学生と僕だけが、たたずんでいた。

 

空が神々しく光り、叶姉妹が降りてきた。

 

僕と学生は、無礼の無いように、衣装も正装に着替えて、叶姉妹を迎えて、四人で手をつなぎ、円の形になりながら、些細な事で笑い合った。

 

スタッフロールが流れ始めた事を確認しながら、エンディングテーマのSMILEの「明日の行方」が流れている

 

この街で一番高い塔の様なビルに貼り付いた巨大な液晶画面では、僕の知らない若い異性達が時代を羽織って、新しい文化を歌っている。

 

スタッフロールの最後のクレジットも流れて、映画館の中は明るくなる。誰かはパンフレットを買ったり、グッズを買ったり、そして、誰かはエンディングの曲を調べてさっそく購入していたりもする。

 

「明日の行方」を

 

劇場の最中で