大いなる帰還【豚山肥太】

豚山肥太の詩と小説を綴るページ

部活動のはなし

その場所は校舎から少し離れた位置にあり、その部室では沢山の変わったものが作られていた。雰囲気は寒色のような彩りが部室全体にフィルターのようにかかってあり、最初に訪れたのが、真冬であったことからか、部室の構成物の一つ一つが、まるで雪の結晶で作られているような、そんな気さえ、してしまうのだ。

 

僕は最初に部室に訪れてから今に至るまで、ひたすら、球体の造形物を作っている。

自分の中の何のこだわりがそうさせるのかわからないが、自然と手を動かしていると、出来上がったものは、決まって球体の形をしていた。

 

僕はそれを、部室の手洗い場の一つを水で満杯まではった場所に放り込んでを続けていた。

僕が放り込んだ球体は、満たされた手洗い場の中で、銀河を構成したり、流星になったりしていった。他の部員は気づいていて、言わないのか、気づいていないのか、とにかく、僕の惑星を作る作業は、まだまだ、終わりそうになかった。

 

部活から帰って、家でテレビを見ながら、夕飯を食べていると、地球に近づいている流星のニュースが流れた。それは見た目が明らかにバスケットボールで、テレビの中では、様々な専門家が、バスケットボールという語句には一切触れることなく、地球はじまって以来の危機だと声を揃えて、人類が右往左往するように、刺激的な言葉を次から次に発言していた。意外だったのは、その日のうちに10万円が各個人に配布されることが決まったことだった。

 

翌日、学校へ行くと、パスケットボール部のキャプテンから話があると聞き、授業が終わって、二人で部室で話すことになった。バスケットボール部のキャプテンは、白い恋人東京ばな奈の菓子折を持って、とにかく僕に謝ってきた。理由はなんのことはなかった。昨日、僕らの部活がはじまる前に、僕らの部室を使って、フルーツバスケットの大会を開いた際に、思春期特有の興味から、僕が水をはっている手洗い場にバスケットボールを、それも一度も大会で使用していない新しいバスケットボールを放り込んでしまったこと。どうにかして、あのバスケットボールはかえってこないかということだった。

 

今、地球に向かっていて、追突するから、かえってくることは、かえってくるとも言えず、まずは、東京ばな奈の方の封を開けながら、僕は思案した。自分で水をはって、作り出した手洗い場であったが、メカニズムも何も自分はわかっていない。ましてや、バスケットボールが放り込まれるとこんなことになるとも思っていなかった。

 

東京ばな奈を一人でたいらげ、白い恋人に手を伸ばした時に、僕はバスケットボール部のキャプテンに、バスケットボールはもうかえってこないことを覚悟してくれと伝えた。バスケットボール部のキャプテンはあとどこの地方の名産品を持ってくれば、バスケットボールは返ってくるのか、そればかり言ってきた。僕は部室にあったコピー用紙にパスケットボールを描いて、パスケットボール部のキャプテンの目を見つめて、その紙のバスケットボールを、キャプテンの額に押し当てた。ぐりぐりぐりぐり押し当てた。

 

痛いっ!

 

バスケットボール部のキャプテンが言って、腰をぬかすと、僕はその手を引いて、手洗い場まで行った。今から見ることは誰にも口外せぬことを、バスケットボール部のキャプテンに、約束させ。僕は手洗い場の水の栓を抜いて、ゆっくり水位が下がってくるのを、パスケットボール部のキャプテンと眺めていた。

 

水が半分まで抜けたところで、球体のものが顔を出した。期待に溢れるバスケット部のキャプテンをよそに、水が抜けきった手洗い場に現れたのは、夕張メロン、一つだった。

 

なんか、そんな気がしていた。と僕は口走ると。夕張メロンバスケットボール部のキャプテンに持たせて、部活が始まる前にパスケットボール部の部室に帰ってしまうよう促した。

 

僕はその日の部活が終わって帰宅すると、テレビでは昨日の流星のことを誰ひとり口にせずに、今日食べる晩御飯がいかにグルメかを競って話していた。

 

それから、もう何年も経って、バスケットボール部のキャプテンは今ではNBAで活躍している。アメリカで活躍する彼からは毎年、夕張メロンが送られてくる。

 

僕はあれ以来、誰に話すこともなく、ひっそりと銀河を作っている。

なかなかどうして、銀河も作ってみると面白いものなのである。