大いなる帰還【豚山肥太】

豚山肥太の詩と小説を綴るページ

ヒーロー

僕は照明を落とした部屋の中を、新作のゲームを夢中になってやっている。途中からはネットで見た裏技を使って無敵状態でゲームをやっている。全てのパラメーターが異常になった登場人物達が、敵に遭遇する、戦うというより、出会った瞬間に敵は消滅してしまう。なんだか、気分はアルコール入りの除菌シートの様な気分。このゲームの中でいくらでもあふれ出てくる悪を、僕はひたすら消毒していた。

 

学校に行っていた頃の事だった。クラスメートの中にテレビタレントが居て、テレビの中では笑いをとって人気者だった。クラスの中でも、人気者で笑いも取りもするが、他にも面白いクラスメートはいて、僕はそのクラスメートに、あいつがあんなにTVで受けてるなら、A君だってTVでそこそこやってけるんじゃないか、隣のクラスのBもいけると思う。

 

そんな事を口走った。Aはふかしタバコを吸いながら、まんざらでも無いようだった。以前はタバコを吸っていなかったが、部活を辞めて、タバコを吸い出した。それから、どんどん自分とは住む世界が違う住人の様に、距離が出来てしまっている。もう、あの頃の、言葉では話せない。そんな感覚だ。僕は、怯えもありながら、AにTVでやってけると伝え終わると、次の授業の体育へと準備をして向かった。

 

 体育の教師は、こないだやって来たばかりだったが、来た当初から厳しく、今日も名前も聞いた事のない筋肉を鍛えると言って、これまた、よくわからない陣形を組まされて、授業は進んでいった。授業が始まって、すぐしてから、汗の匂いがした。自分からしているのか、誰かのものなのか、ずっと気になりながら、クラスメート達とはできる限り距離を空けていた。

 

授業の後半の四分の一は教師不在で行われた。教師がどこかに行ってしまって、戻ってこなかった。クラスメートの中には学校を飛び出して、たまり場になっているファミリーレストランや喫茶店に向かう者達もいた。それ以外のクラスメートは、各々に割り当てられた冷蔵庫から、冷えた果物や、冷やしあめなんかを飲んだりしていた。僕も自分の冷蔵庫を空けると、ちゃんとした製品のパッケージでは無い誰かが適当にビニール袋をはりあわせて、適当にプリンの絵を描いたものが出てきて、暗い気持ちになりながら、その包装を空けた。中のプリン・ア・ラ・モードはぐちゃぐちゃで、僕は低い気持ちで台無しだと思った。

 

芥川龍之介の見た歯車とヘッセの車輪の下が噛み合いながら、僕の思春期を蹂躙していくイメージだ。

 

僕はどんどん外気に怯えるようになっていき、学校へもどんどん足が遠のいた。ある夜、TVをつけると、学者や評論家達が揃って、こないだ体育の教師にやらされよくわからない運動をキャッキャ言いながらやっている。政治家チームも参戦するとなった所で、TVを見るのを辞めて、ゲーム機のスイッチを入れた、ネットで決済してダウンロードしておいた新作のゲームを始めた。はじめて少しして自分には難易度の高いゲームだと気づき、ネットを検索しだした。

 

ネットで手に入れた裏技を駆使しながら、僕はゲームの中の世界を消毒して回っていた。何かが救われるわけではなかった。誰かの作ったプールの中を、僕は決められた範囲の中で、無秩序をぶっているに過ぎなかった。飛んでやろうと、僕は本当に窓から飛んでやろうとしたが、ここは2階で痛い思いをするだけで、パーマンに憧れたなれの果てだ。

 

明日、学校があることは知っている。くだらない事もほぼ確定している。逃げ出したくなったら、いつでも逃げ出せばいい。くだらない毎日を繰り返し進むんだ。

 

きっと今より少しはタフなくだらない大人になってやる。

 

僕はベッドに転がると、誰に向けるでもなく思いっきり笑ってやった。

 

 

 

 

モンスター

この都市では比較的大きな本屋で注文しておいた「小説の書き方」の類いの本を受け取ると、自宅への帰路についた。本屋ではデカデカと、地上に突然現れるようになった化け物の話が、大々的に宣伝されていた。近々映画化もされるようで、映画のエイリアンを地上に置き換えただけの様なその得体の知れないモンスターが、書店のディスプレイのモニターの中を、えげつない跳躍力で飛び跳ねていた。

 

僕は学校の修学旅行を前にして一抹の不安を抱えていた。僕の通う学校は、修学旅行を年に一回、同じ学校法人の小学校の一年生から、高校の三年生まで一度に全ての生徒が、修学旅行に参加する。人数も半端じゃないし、それに関わる人間の労力も半端なものではない、まず、生徒らから疲弊してしまっているのだから、何のためにこんな大がかりな嫌がらせの装置を毎年起動させるのか、疑問であるし、また、決まってあまりいいことは起きない。

 

だけど、今年も修学旅行の前段のイベントは次々と進み、もう、修学旅行も間近に迫っていた。その頃、僕らの学校の中では、誰が言い出したのか、あの書店で見かけた得体の知れないモンスターが実際に存在して、各地で残酷な事件を起こしているという都市伝説の様なものが流行りだした。警察をはじめその他の機関も影響を恐れ、このことを公にはしていないという。心の中で突っ込みを入れながら、僕は今年の修学旅行は何もないことを願って、準備を少しづつ進めていた。

 

よく晴れた日に、修学旅行の日程はスタートした、僕らは様々な交通機関を巨大な規模で貸し切りながら目的地へ進んだ。最終的には、大本が同じ法人の運営する巨大なリゾートホテルに僕らを運んだ。一年のうちでもあまり集客を見込めないこの時期に、リゾート地は僕ら学生でいっぱいになった。

 

今年はあまり運が良くなかった様で、ホテルで同室になったメンバーにあまりいい気はしていなかった。いざという時の護身術の動画を繰り返し見ながら、何も起きないことを祈っていた。

 

一日目が終わり、二日目に生徒が集まった時に、変な噂が流れてきた。昨日の夜にあのモンスターを見たものが複数いるという。どうでもいいと思いながら、その噂は、あっという間に伝搬して、この修学旅行一番の目玉になってしまった。

 

ホテルの部屋では本気なのか冗談でやっているのか、柔道の寝技をかけあう生徒がいて、一人があまりに本気を出してしまって、他の生徒を締め落としてしまった。落ちてしまった生徒はしばらく気を失っていたが、自力で気を取り戻し、ふらふらとしていた。誰も先生や助けを呼ぼうとしなかった。それがとても怖かった。益々、同室でいるのが嫌になった。締め落とした生徒は何も反省せずに、同室の学生を次々にターゲットにして、僕は自分の順番を待つほか無かった。

 

はい、次と言われて名前を呼ばれて、僕は硬直した。

 

頭がぐるぐると回りながら、今の状況の突破口を探している。僕は押してはいけないスイッチが自分の中にあることを知りながら、いざ、相手が絞め技に入り出すと、我慢の限界を超えて、僕のスイッチは入ってしまった。僕を背後から締めている相手ごと立ち上がって、軽く飛んで、そのまま背中から体重をかけて、自分の身体を相手の上に落とした。相手には凄く効いたようだったが、この先に起きることが明るくないことも、同時に僕には見えていた。

 

翌朝、起きてみると着替えようとした僕の衣類が見つからない。同室の誰として、おかしな表情ひとつせずにしている。案惨たる気持ちになりながら、僕はもう戻らない事を決めて、昨日、絞め技をかけてきた相手の胸ぐらを掴んで、衣類をどこにやったか、追求した。その僕を同室の奴らが後ろから蹴ってくる。うすら笑いをうかべた相手に僕は

 

暴力のスイッチを入れた

 

呼び出しをくらった先生達の控え室で、先生から事情を聞かれた。

先生からは、どうしてそのくらいのことが我慢ができないと責められた。

あなたは好き勝手し放題だねと言われるも、他の生徒を締め落としたり、衣類を隠した生徒は「被害者」で、何かその全体の状況そのものが、自分に更なる決意をさせた。

 

僕は、ホテルの部屋へ戻ると、荷物をまとめて、リゾート地を出た。幸い、修学旅行であった為、お金もいつもじゃ考えられない額を持っていたので、交通機関にかかるお金も足りない事はなかった。

 

家に帰るつもりはなかった。自分一人でこれから生きていこうと思った。

 

それから先、沢山の勢いだけではどうにもならない、手続きや契約、審査、確認、証明、ありとあらゆる煩雑な事が僕を待っていたが、全て自分で決めた事なので後悔はなかった。

 

僻地の安アパートの僕の部屋に置いてあるパソコン用の小さなディスプレイの中では、いつかのモンスターが飛び跳ねては、相も変わらず残酷な事件を次々と起こしている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

柔道場について

中学へ進む前は部活は柔道部に入ろうと決めていて、小学校の終わりから近くの町道場へも通い出した。道場には同じ地域にある全国屈指の大学柔道の先輩が教えに来てくれて、凄く恵まれた環境だった。

 

僕が中学へ進む少し前に、中学の柔道部は部員がいないことから、廃部になった事を聞いた。練習用の道場はとても大きくて、その道場をこれからどう使うかなんかが、中学の先生達の間では話し合われていた。

 

僕は自宅にある和室で、町道場にいかない日は、柔道着に着替えて、一人で投げ技のフォームを自宅にあるビデオカメラで撮影したりして、この先が不確かになった中学での柔道部生活への不安を紛らわせていた。

 

僕が今の家に引っ越して来たのは小学校二年生の時で、両親が長いローンを組んで建てた一戸建てだった。当時は、母方の祖母が和室を使っていたが、昨年に祖母は他界した。あまり、自分の記憶をたぐり寄せても、なぜだか祖母の記憶はあまりない。

 

一度、白玉だんごを作ってくれた事があって、家の中にお菓子屋さんが出来た様でそれがとても嬉しかったことくらいは覚えていた。実際には祖母はもっと白玉だんごを作っていて、それは祖父や神棚に供えられていたようだった。

 

ある日、いつもの様に、和室で練習しようとして、ふすまを開けようとしたが、立て付けが悪くなった様に開かない、それでも何とか開いて、僕はいつものように、練習を終えた。

 

次に練習しようと和室に入ろうとしたが、今度はもう、ふすまがたわんで、曲がっていて、不気味だった。強引にふすまを外して、和室に入ると、気のせいか、畳の面積が増えているように感じた。

 

あまり、事態をよく考えずに、その日も練習を終えて、ふすまは外したまま、和室の事は置いておいた。仕事から帰宅した母が、ふすまの事を注意してきたので僕は事情を説明した。母はそんなことないと、ふすまを取り付けようとしたが、上手くはいかなかった。そして、やはり畳の面積が大きくなっている気がした。

 

ある日学校から帰ると、和室からアップテンポの洋楽が流れるので、のぞいて見ると、去年の全日本選手権の覇者の常滑川選手が柔道着を着て、腕立て伏せをしていた。僕はどうしていいかわからなくなって、母にたずねようとしたが、母は全く僕の聞いた事には答えず、なぜだか母も柔道着を着て、台所で自分なりに精一杯トレーニングしていた。

 

父が帰宅するのを待って、帰宅した所を出迎えに行くと、男女各階級の全日本の強化選手が父とともに帰宅した。父も仕事の時は、いつもスーツなのに、今日は柔道着で、そこに不似合いなネクタイをしていた。その晩は、常滑川選手を中心に、全日本の強化選手達と、父と母、そして、僕の兄と僕ら一家とで、ワイワイ、食事をして盛り上がった。僕は皆さんにサインをもらったりして、その日はそれで終わった。

 

翌日は早朝から、朝練が始まって、僕も参加したりもした。和室は遙かに大きくなっており、大学が持っている柔道場くらいの大きさになっていた。いつのまにか、最新のスポーツに関する理論で作られたトレーニングルームも出来上がっていた。

 

僕は売店で、各選手のサイン入りブロマイドを購入したり、出稽古にやってきたフランスの選手団と記念撮影をしたりしていた。学校に行こうと家を出て振り返ると、そこには、日本武道館がたっていた。

 

僕はとにかくうれしくなって、小学校へ行くと、先生から引っ越しに関する話を切り出された。遠回しに先生は、日本武道館になった我が家に僕の住むスペースが無いことを察せとばかりに引っ越しを勧めてくる。先生はずばり、中学の柔道部の部室が空いているからどうだと言ってきた。僕が断ろうとすると、めちゃめちゃこちょばして来たので、僕は観念して、中学に進学するとともに、中学の柔道部の部室に僕だけ引っ越した。

 

もちろん、中学校の中にある柔道部であったが、何か嫌がらせに合うという事はなく、僕は、50歳を目前にして、今もその部室に住んでいる。

 

筆跡

あなたが馬鹿にしてくれたから今日がある

 

あなたが笑ってくれたからこの手がある

 

あなたがさげずんでくれたからこの思いがある

 

あなたが否定してくれたから今こう思うことができた

 

あなたがいてくれたから今の僕がある

 

夜の中を幾つもの線を引くことを繰り返し

 

時間を重ねてはいい曲線が出てくれることを待っている

 

これを一生やっていこう

 

何度も思ったようにやはりそう思った

 

ワンルームの部屋には誰からも電話はかからず

 

メールもLINEも届くことはない

 

これからやることは

 

ただ描くこと

 

自分の中の純度を何度も濁らせてたどり着いた場所

 

夏に蝉が鳴くように

 

ただ描くだけ

 

食事、睡眠、健康

 

それだけを気にして

 

描いたものが作品なのか筆跡なのかはどうでもいい

 

一つでも筆跡を

 

君がいてくれたから今日、心はこの場所にある

 

 

帰郷

夕方には涼しい風が吹き始めた頃に、僕は故郷の温泉地で開かれた集団お見合いに参加した。

同級生も何人か参加するらしく、僕は密かに胸を高ぶらせて帰郷の途についた。

あの子はどうしているだろう?

 

そのことばかり考えながら、僕は新しく作られたお風呂付きの個室のある車両に乗って、故郷の町に向かう、湯船につかりながら、風呂上がりには柿の種のわさび味を食べようと上機嫌だった。

 

故郷につき、実家に寄ることもなく、駅前のシティホテルにチェックインして、集団お見合いの開かれる会場のあるホテルに向かった。途中に同年齢の男女を見ると、同級生の気がして、ドキドキする気持ちが高ぶっていった。

 

ホテルにつき、集団お見合いの受付をすませ、ホテルの地下にある、地下格闘技場に向かった。観客の入りもまぁまぁで、僕は集団お見合いはまだかまだかと、自分に与えられた控え室で入念に、アップを繰り返した。

 

係の人が呼びに来て、僕はリングに向かった、今日は5vs5でのお見合いになる。僕は女性陣の顔ぶれを確認した。一人とびきり懐かしい初恋の相手であったメキシコ人レスラーがいた。

髪の長い整った顔立ちをしたマスクをしている。僕の胸は沸き立った。

 

男子、女子、それぞれ作戦を確認し、ゴングが鳴り、集団お見合いは始まった。

僕の狙いは、メキシカン一択。きっとアッパーで仕留めてやるさ。

集団お見合いは始まりだし、レフリーや解説や実況を巻き込んでの大人数での人生ゲームが始まった。

ゲームも中盤にさしかかった所で、激しく、ルーレットをみんなが回し過ぎたせいで、ルーレットが壊れてしまった。みんながどうしようとしているそのタイミングを狙って、僕は見事なまでのアッパーカットをメキシカンに食らわせた。会場からは大ブーイング、レフリーから往復ビンタ、携帯の番号のタトゥーを額に掘られることとなった。

 

それでも、そんな不器用な僕のやり方に興味を持ってくれた子もいて、控え室には、トラック12台分の粗大ゴミが届いていた。僕は粗大ゴミを全て分別して、市の粗大ゴミの収集を担っている部署に連絡して、品目別に、費用を払い、買ったシールを粗大ゴミにすべて貼り付け、回収を待った。

 

上空からUFOのような巨大な飛行物体が現れて、僕は粗大ゴミと一緒に、光の中に包まれていった。

 

映画のラストみたいに上手くは終われないのさ、人生は途中で突然に終わる

 

僕がそれをUFOの中でマッキーで落書きしていると、UFOを運転していた市の職員さんが、激怒して、僕はこれ以上はないというくらいの見事なアッパーカットをくらって、UFOからも落ちていった。

 

僕が落ちた先は、どこかの家の前で、僕はスーツについた汚れを払うと、ドアを開けて、家の中に入っていった。子供がお父さーんと言って、駆け寄ってきて、その向こうでは妻が笑っていた。

 

すまないと僕が妻に謝ると

 

いつものことよと妻は笑って、夕食の支度を始めた。

 

 

部活動のはなし

その場所は校舎から少し離れた位置にあり、その部室では沢山の変わったものが作られていた。雰囲気は寒色のような彩りが部室全体にフィルターのようにかかってあり、最初に訪れたのが、真冬であったことからか、部室の構成物の一つ一つが、まるで雪の結晶で作られているような、そんな気さえ、してしまうのだ。

 

僕は最初に部室に訪れてから今に至るまで、ひたすら、球体の造形物を作っている。

自分の中の何のこだわりがそうさせるのかわからないが、自然と手を動かしていると、出来上がったものは、決まって球体の形をしていた。

 

僕はそれを、部室の手洗い場の一つを水で満杯まではった場所に放り込んでを続けていた。

僕が放り込んだ球体は、満たされた手洗い場の中で、銀河を構成したり、流星になったりしていった。他の部員は気づいていて、言わないのか、気づいていないのか、とにかく、僕の惑星を作る作業は、まだまだ、終わりそうになかった。

 

部活から帰って、家でテレビを見ながら、夕飯を食べていると、地球に近づいている流星のニュースが流れた。それは見た目が明らかにバスケットボールで、テレビの中では、様々な専門家が、バスケットボールという語句には一切触れることなく、地球はじまって以来の危機だと声を揃えて、人類が右往左往するように、刺激的な言葉を次から次に発言していた。意外だったのは、その日のうちに10万円が各個人に配布されることが決まったことだった。

 

翌日、学校へ行くと、パスケットボール部のキャプテンから話があると聞き、授業が終わって、二人で部室で話すことになった。バスケットボール部のキャプテンは、白い恋人東京ばな奈の菓子折を持って、とにかく僕に謝ってきた。理由はなんのことはなかった。昨日、僕らの部活がはじまる前に、僕らの部室を使って、フルーツバスケットの大会を開いた際に、思春期特有の興味から、僕が水をはっている手洗い場にバスケットボールを、それも一度も大会で使用していない新しいバスケットボールを放り込んでしまったこと。どうにかして、あのバスケットボールはかえってこないかということだった。

 

今、地球に向かっていて、追突するから、かえってくることは、かえってくるとも言えず、まずは、東京ばな奈の方の封を開けながら、僕は思案した。自分で水をはって、作り出した手洗い場であったが、メカニズムも何も自分はわかっていない。ましてや、バスケットボールが放り込まれるとこんなことになるとも思っていなかった。

 

東京ばな奈を一人でたいらげ、白い恋人に手を伸ばした時に、僕はバスケットボール部のキャプテンに、バスケットボールはもうかえってこないことを覚悟してくれと伝えた。バスケットボール部のキャプテンはあとどこの地方の名産品を持ってくれば、バスケットボールは返ってくるのか、そればかり言ってきた。僕は部室にあったコピー用紙にパスケットボールを描いて、パスケットボール部のキャプテンの目を見つめて、その紙のバスケットボールを、キャプテンの額に押し当てた。ぐりぐりぐりぐり押し当てた。

 

痛いっ!

 

バスケットボール部のキャプテンが言って、腰をぬかすと、僕はその手を引いて、手洗い場まで行った。今から見ることは誰にも口外せぬことを、バスケットボール部のキャプテンに、約束させ。僕は手洗い場の水の栓を抜いて、ゆっくり水位が下がってくるのを、パスケットボール部のキャプテンと眺めていた。

 

水が半分まで抜けたところで、球体のものが顔を出した。期待に溢れるバスケット部のキャプテンをよそに、水が抜けきった手洗い場に現れたのは、夕張メロン、一つだった。

 

なんか、そんな気がしていた。と僕は口走ると。夕張メロンバスケットボール部のキャプテンに持たせて、部活が始まる前にパスケットボール部の部室に帰ってしまうよう促した。

 

僕はその日の部活が終わって帰宅すると、テレビでは昨日の流星のことを誰ひとり口にせずに、今日食べる晩御飯がいかにグルメかを競って話していた。

 

それから、もう何年も経って、バスケットボール部のキャプテンは今ではNBAで活躍している。アメリカで活躍する彼からは毎年、夕張メロンが送られてくる。

 

僕はあれ以来、誰に話すこともなく、ひっそりと銀河を作っている。

なかなかどうして、銀河も作ってみると面白いものなのである。

 

 

つづく

第一集団ははるか遠く僕はそれでも走っていた、真夜中を、真っ昼間を、濁った海の藻屑の中を、ただ己の中にある前へと向かう推進力だけを頼りにして、ひたすら走っていた、朝焼けの道路に規則正しく並んだ街灯を数えては、もう一つ、もう一つ、永遠に終わらないかも知れない旅路を止めるわけにはいかなかった。

 

第一話は女Aが現れた、女Aは象徴の様に現れてきた。30を過ぎても、僕の中では女性とはつまり、女Aだと頭が勝手に解釈しているようで、それはコントロールの効くものではなかった。

 

新しい都市計画が進む中、僕は実家に帰ろうと、実家付近のエリアのエレベーター乗り場から実家へ向かいエレベーターに乗り込んだ。エレベーターはどんどん上昇すると、エリア内のいくつかの建物へと人を運んだが、僕の実家へ寄ることは無かった。乗るエレベーターを間違えたかと思っていると、学生時代がやって来て、僕は睡魔の中、試験の為の暗記に必死だった。

 

いくらやっても覚えられない物理の方程式やいくら覚えても終わる事のない英単語の中を、どの方程式を使っていいのかもわからない数学の問題を前にしながら、時刻はもう早朝4時、あと、5時間もしないうちにテストが始まる。

 

試験前には少しでも寝た方がいいとは知りつつ、僕は徹夜で学校へ向かった、その頃はまだ、都市計画のまだの頃だから、歩いて駅へ行き、そこから電車に乗って学校へ向かった。

 

学校へ向かう道の途中で、僕はマラソンの集団に巻き込まれて、そのまま、マラソンに参加することになった。女Aはそのマラソンの集団の中にいたが、僕もあまり上手くも喋れずに、どんどんと女Aとの距離は開いた。遠のく女Aに向かって、僕はそれしか自分に主張できるものがないような感覚で

 

僕は北西高校です。僕は北西です。

 

と叫んでいた。再び走り出した僕は、北西高校が何かも、どこにある高校かも、自分は全く知らないことに気づき始めていた。

 

僕は北西高校ならという理由で、近くのコンビニエンスストアで働き始めた。昔より客の注文が多くなったのか、パンは粉をこねるところからはじめ、米は釜で炊くところから始めないといけなかった。全部レジに置いてやるので、一人できりもりするのが、大変だった。第二話の女Bが現れたが、コンビニ内でのヒエラルキーは僕よりはるかに高く、話す機会も無かった。ただ、女Aとともに、女Bは象徴的なものであるのは間違いなかった。

 

コンビニのレジは思っていたより大変だった、パンが出来上がる前の生地が欲しいと注文が入り、その生地もどんな状態でもいいと言うわけではなく、細かく条件が指定されていた。それを、どうレジで打って、お客さんに、売っていいかもわからなくて、変な汗ばかりかいた。

 

ご飯も人によって、好みにわけて、注文を受けなければならず、これもまた、売り方がわからず、凄く困った。バーコードを読み取るわけにもいかず、レジにはこちら側で設定した値段を入力する項目もなく、塩とコショウが一つまみづつ欲しいというお客さんにも対応せねばならず、既知のコンビニの接客との違いに思いやられた。このコンビニではパックのジュースを買っていくお客さんなど一人もおらず、たいていがイレギュラーな注文ばかりしてくるのだ。

 

へろへろになりながら接客していると、店の店長がコンビニの入り口の自動ドアに首を挟まれて、真っ青になっていた、僕はそれを見て、めまいがして、その場に倒れ込んだ。このまま気を失ってしまえたらそう思った。

 

目の前の景色が広がると、そこでは、バギーに乗ったゴリラが平然と穏やかなオフロードを夕陽を受けて走っている。

 

まるで、こうやって生きていくんだとも言われているようで、それがなかなかできない自分を扱いきれずにいながら、バギーに乗ったゴリラを見ていた。

 

バギーのゴリラは、こちらを向いて言う。

 

 

翼なら売っている。少し値が張るが空を飛ぶのはいい気分だ。

このバギーも売ってる店だったら紹介してやる。こう見えて全く運転技術がいらない、値段もそんなに高くはない。

 

僕はバギーのゴリラの話を途中から聞かずに、ため息をわざと大げさに何度もはいて、走り出すことにした。

 

朝焼けの街は、どこか空気も澄んでいて、これからはじめるにはなにもかも良かった。