strawberry bus 【超短編小説】
夜になると俺は機械のスイッチを入れて女の裸を眺めた、女の裸から女の裸に飛んで、ページ全ての女の裸を見終わると次のページに飛んでまた女の裸を眺めた。
甘く酸味がかった夜の中を奈落に落ちるような気持ちで俺は溶けていった。
音楽と照明の刺激が強すぎて、少しまいってきた。俺はどこか休める場所はと椅子を探した。
なかなか見つからなくて、俺は店から出て、北陸行きの長距離バスに乗ると、鞄からクロスワードパズルを出して、到着までの時間を潰すことにした。ふと、隣の席で、女があたふたとしている。気になった俺は女に声をかけると、女はこれはなんですか?と、バスの座席のことを聞いてくる。
何かひっかけてきてるのかと疑って、バスの座席について基本的な事を伝えた。
女は驚きながら、なんとか理解しているようにも見えた。その話を聞いていた周囲の座席の人達もあれこれと座席について、聞いてくる。
悪い夢だと思いながら、俺は簡単な説明を繰り返した。北陸に着く頃にはSNSは俺の話題がトレンド入りし、マスコミも何社かのインタビューを終えていた。
時の政権から出馬してみないかと、俺が当選する裏付け資料を持ってテレビで度々見る男が直に北陸のバスターミナルまでやってきて、俺はその場で出馬会見を開いた。
近く選挙も何もなかったのだが、大幅に法律が変わって、当選することになった。
俺は朝顔の種を巻いて花が咲く間に、ほぼ全ての省庁の大臣を務め、総理大臣のポストへと上り詰めた。
今回の総理大臣は、並々ならぬと、総理大臣の名称でなくお迎えしようと、国民は沸き立った。国民的な議論が行われ、大規模な国民投票が行われ、今度の総理大臣はよごれ芸人と呼ばれる事が決定した。俺はよごれ芸人になることになった。
よごれ芸人就任のパレードで、観衆から湧き上がるよごれ芸人の声に、やっぱり何かおかしいやと、俺はポケットに忍ばせておいたドローフォーのカードを投げつけると、皆がそれに気をとられているうちに、バスターミナルから、四国行きの高速バスに乗り込んだ。
バスターミナルの最終に近かったバスにはあまり乗客はおらず、何のサービスかはわからないが、卑猥な映画がずっと流れていた。俺はストロベリーのパフェを注文すると、隣の席に目をやった。女がいつか見た光景のようにあたふたしている。俺は間違えてはいけないと、何か飲みますか?と女にたずねた。
女は少し躊躇した後で、じゃあ宇治金時をと返事を返した。宇治金時を注文すると、俺達は席を移動して、今度の休みはどうするかについて話した。
近くにとてもつまらない遊園地があるからと、女が言うので、興味本位で行ってみようと、盛り上がった。
次の休みの日、俺達は、国会議事堂の前にいて、これから何が起きるかについて、あまり期待もできずに、二人並んで、くだらない話を繰り返していた。
今日のすべて【超短編小説】
TVの中ではチャンピョンがたかだかと拳を上げて歓喜の中にいる
いつか、その場所に行くんだと僕は決めて
ほてった魂をかかえて、走りこみに向かった
深夜を回っても原稿は完成せず、政治的な政府の中の政治的な女と男の政治的な話をまとめるのに、苦慮していた、言葉が足りない、資料が足りない、決め手に欠く情報がループしている、結果、朝方に入った一報でウラが取れて、原稿は完成した。
庭に飼っているプテラノドンの足に原稿を巻きつけると、編集部宛にプテラノドンを空に放った。
外はすっかり朝で、庭の前をジャンボジェット機が屋根すれすれに低空飛行しながら飛んでいる。市役所行きの始発のようで、スーツを着た男や女が何人もジャンボジェット機に必死にぶら下がっていた。
僕はクラウドサービスに上げていた母をダウンロードすると母の日のお祝いをして、また、アップロードして、今日、やるべきことのタスクをこなしていた。
母は重量上げのチャンピョンになるのよとご機嫌だったが、腰をいわしてしまうからと、YouTubeのおすすめのストレッチの動画を教えておいた。お礼にこれをあげるわと、食べさしのチラシ寿司をくれた。むげにもできないので、お礼だけいって、瞬時に母をクラウドに上げた。
編集部から電話がかかってきて、多少書き直されるものの、これでいいとのことで、安堵した。原稿料はプテラノドンの足にくくりつけて送ると言うと、今回はとびきりはずむぜと、念を押された。
僕はボーリング場によってストライクを3つ出すと、空虚な今の暮らしに胸がかさんだ。
シャンプーには少しお金をかけ、カセットテープで音楽を聴き、古いアメ車に乗っている。
何もチャンピョンじゃない、何もチャンピョンじゃない。
編集部からプテラノドンが足に包みをくくりつけられてかえってきた。
包みを空けると、中にあったのは黒こしょうだった。
高く売れると、メルカリに出品して、換金を急いだ。
興味を持ったらしい、アカウントが連絡を取ってきて、特別なものと交換してくれと言ってくる。なんだ?と聞くと、チャンピョンと答える。悪くないと僕は思い。交渉成立し、
黒こしょうとチャンピョンを交換した。
古いビデオテープの中、日本がボイコットするはずだったモスクワオリンピックの女子重量挙げの決勝で、母が世界新記録を出して、金メダルに輝いている。
僕は悪くはないと、眠気も隠さずにベッドに倒れ込んで少し眠った。
遠く飛行機の飛ぶ音が聞こえていた。
帰るべき場所へ【超短編小説】
高ぶった感情で震える声で歌っていた
まるで自分が主人公みたいで、その頃はまだ酔えていた
どんどん、客観的にみざるおえない事実がハッキリと積もって
僕は僕が天才でないと知る
ただ、翼くらいは生えてるはずさ
今だって空くらいは飛べるくらいの
駅前のそば屋でコートに身を包んでうどんに一味をふると
男は手帳を開いて、今日の夢に必要な写真の撮影場所にチェックマークをつけた
成人映画の大きな看板をカメラにおさめようとするが、映画館が写真を撮り終えるまでになくなってしまった
そこは今日の夢の思い出の大事な場所で、男は喫茶店に入ってホットコーヒーを
一つ頼んで、どうしたものかと考えながら、そのまま深い眠りに入ってしまった。
男の見ている夢の中、遠くの方で凧が上がっている、凧の下には恰幅のいい男がいて、凧を操りながら聞いてくる
なぁ、どっちが勝つと思う 理性と本能 どっちが勝つと思う
と、繰り返し繰り返し聞いてきては、返事の仕方次第で、タイプライターを使って古いコンピューターの中のオッズを操作している
男は恰幅のいい男に、あんたはどう思うのさ?と聞くと
恰幅のいい男は花火師達を呼ぶと空に向かっていくつもの大きな花火を上げた
男はそれに見とれてるうちに、恰幅のいい男を見失ってしまった
男はそろそろ夢から出ようと出口行きのバスに乗ってガタゴトと揺られていた
男は途中のバス停で乗り込んできた女がキレイで気になって仕方なくなった
彼女も出口まで行くのだろうか、そんなことばかり気になりながら、真冬の豪雪地帯の中を走っていくバスはひたすら次のバス停へと向かう
男は希望が欲しいと思った
バスの路線図を探しても希望は手に入りそうになかった
キレイな女はいつの間にか車内広告のポスターの中に入ってしまった
絶望した男はそのままバスから飛び降りて、夢の出口まで真っ逆さまに落ちていった。
夢から覚めると男は喫茶店に張り出されたオッズ表を見ながら、本能にかけることを喫茶店のマスターに伝えた。
マスターは暗証番号をテープで貼り付けた銀行のキャッシュカードを男に渡すと、結果が出たらこれを持って、また、来てくれと言う。男は店内にあるATMでお金を下ろし、喫茶店の会計を済ませた。支払いのいい客だとマスターは上機嫌で男を見送った。
男は今日の夢に必要な写真を撮ることを再開することにした。
林間学校のお土産物売り場の写真がどうしても必要だったので、小学校時代まで、少し飛ばして、土産物屋の前まで来た。必要な写真は土産物売り場の中でも、とりわけパウンドケーキが売られている場所で、男はそこを何枚もカメラに収めると、土産物屋を後にした。
土産物屋を出る際に、レジの後ろに貼られたポスターを見ると、いつかのバスで見た女が、また、今度は山菜を採りながら写真に収まっていた。
もう、忘れようと男は飛ばして、時間の中を泳いで、そろそろ今日の夢に備えた。
男は写真の入ったSDカードを耳の後ろに設置したカードリーダーに入れると、自分の意識レベルを落としていった。
男の見ている夢の中で男は山深い小さな渓谷で暮らしていた。
何があったという人生でもなかった。
何をしたともいえぬ人生ではあった。
ただ、穏やかに男は夢の中で暮らしていた。
Love Letter Summer 【詩】
君はきっとこの世のどこかで
どこかの誰かを
世界中の人達を
ぼうっと恋の病にさせてしまって
花の様に笑ってる
いつかすべて忘れてしまっても
君に恋した季節は忘れることはない
あの夏、君がいた海のこと
忘れない君を好きだったこと
夜のセツナセツナセツナ【小説】
いくつかの抽象画のタイトルを書き終え、僕は無事大学に入学した。
購買部に筆や絵の具を買いにいくと、それは僕の住んでいたマンションの隣に立っていて、いつも働く露店型のコンビニがあり、購買部の中では、セール中のサイズの大きい服が沢山売っていた。
学生運動が華やかな頃だったから、僕は新聞部に入った。
新聞部は革新的な考えを訴えていたが、新聞部の中は、押さえつける力とコントロールする力に溢れていた。
入学する時に会った彼女も新聞部に入ったようだが、彼女も矛盾の中に苦しんでいた。
色んな嫌がらせを受けながら、新聞部の同期にある真実を話していると、紙に録音ボタンの書かれたようなのを出してきたので、同期にたずねると、この紙でクラウド上のストレージと繋がって録音できるのだという。
僕は紙を裂いて、新聞部を後にした。高い高い校舎の上から、新聞部の同期が水を落としてきた。
僕は帰る道を急いだ。
いつもの帰り道のはずだが、乗る電車を間違えたらしい、あの駅の乗り換えの終点の駅に来たからどうなることかと思ったら、そこから地元の駅へはすぐであった。
いつの間にか交通手段は進歩して、僕らはそれにも気がつく事ができない。
彼女の記憶がかすかに残りながら、僕は眠りに包まれていた。
今年で46になる。
記憶が複雑に絡まって、結晶にもなれずに、学生帽が闇夜に浮いている。
ときめいた胸だけ残して、記憶は全て消えていった。
フルキャスト・ベベルカット【詩】
いったい誰の夜でしょう?
こんなに光が差さぬのは
皆目、無駄足の日々
フルキャスト・ベベルカット
世界の樹木の頂点に君臨し
優しい笑みを浮かべている
あの頃にはもう、戻れない
世界の行く末
週末の予定
履き慣れた靴
誰かに会う為に生きてきた
誰かと話すために生きてきた
白昼夢中、今宵、不味い店は繁盛す【小説】
器に浮いたスープの脂を見ながら、食欲はわかず、かえって怯えのように唾液が胃袋から、上がる。本当にこの店の飯は不味い。何度もした確信を更に塗り固めながら、俺は、店のマスターを呼んで、勘定を払った。帰り支度をととのえながら、店のマスターに、大口を叩いた。
「マスター、この店で俺以外の客を見たことがないんだが、そのぅ、店の方の塩梅は、大丈夫なのかい?その、経営的にというやつだ。」
ちばてつやのタッチで描かれた、ジョーのセコンドがそのまま、店の奥の方から、出てきて、セコンド、つまり、マスターは、にっこりと笑って言った。
「これで、この店は繁盛してんだ。心配はいらねぇよ。それより、胃腸薬は飲んだかい?今日のスープの出来は、酷くてね。今日は小バエが、一匹も見ることがないんだよ。」
ゾッと悪寒がして、俺は愛想笑いを浮かべながら、ここから一番近いドラッグストアにそそくさと向かった。
あんな、不味い店が繁盛するわけがねぇ。いててててっ、こりゃ、今日のは本格的だ。明日は点滴かもな。乳酸リンゲル液130〜150ml/時間で確定だ。いてててっ、いてててっ。
俺が胃腸薬をお菓子のラムネのようにボリボリと噛み砕きながら、一瓶を空にしてしまううちに、都市部から田舎へと向かう列車は、真っ暗な夜の中を、このオンボロの中年男を乗せて走った。疲れたサラリーマンが、電車の隅で、自分の人生に対して複雑骨折したかのように、絡んでいた。