大いなる帰還【豚山肥太】

豚山肥太の詩と小説を綴るページ

白昼夢中、今宵、不味い店は繁盛す【小説】

器に浮いたスープの脂を見ながら、食欲はわかず、かえって怯えのように唾液が胃袋から、上がる。本当にこの店の飯は不味い。何度もした確信を更に塗り固めながら、俺は、店のマスターを呼んで、勘定を払った。帰り支度をととのえながら、店のマスターに、大口を叩いた。

 

「マスター、この店で俺以外の客を見たことがないんだが、そのぅ、店の方の塩梅は、大丈夫なのかい?その、経営的にというやつだ。」

 

ちばてつやのタッチで描かれた、ジョーのセコンドがそのまま、店の奥の方から、出てきて、セコンド、つまり、マスターは、にっこりと笑って言った。

 

「これで、この店は繁盛してんだ。心配はいらねぇよ。それより、胃腸薬は飲んだかい?今日のスープの出来は、酷くてね。今日は小バエが、一匹も見ることがないんだよ。」

 

ゾッと悪寒がして、俺は愛想笑いを浮かべながら、ここから一番近いドラッグストアにそそくさと向かった。

 

あんな、不味い店が繁盛するわけがねぇ。いててててっ、こりゃ、今日のは本格的だ。明日は点滴かもな。乳酸リンゲル液130〜150ml/時間で確定だ。いてててっ、いてててっ。

 

俺が胃腸薬をお菓子のラムネのようにボリボリと噛み砕きながら、一瓶を空にしてしまううちに、都市部から田舎へと向かう列車は、真っ暗な夜の中を、このオンボロの中年男を乗せて走った。疲れたサラリーマンが、電車の隅で、自分の人生に対して複雑骨折したかのように、絡んでいた。