大いなる帰還【豚山肥太】

豚山肥太の詩と小説を綴るページ

わすれな街の夜風にて【詩】

 

どうしようもない恥ずかしさで

赤面したまま

逃げ出したいけど

胸が高鳴るから

席をたたずに

あなたのセリフに耳を全方位傾けて

とこしえのことで

うつつかな


壊れた時計の修理に出すからと

あの子がねだった小遣いで

まさか、ギターを買うとわね

やるじゃないかと嬉しくも

怒るのも仕事で

ニヤニヤしながら叱ったよ



大好きだったレコードは

オトナになっても持っていく

そう、みんなで言って確かめたのに

あの夜のうちの誰があの歌のレコードを

今もかけられるのでしょう


時間と時代は

たくさんの人とたくさんのお金を

動かしたけれど

この街の誰が幸せでしょう

 

あの頃のようには歌えないのに

 

この街の誰かに教えてあげて

どうしようもない時は

私を呼んで

言葉の中にいるからさ

連番、バックナンバーでいるからさ

 

少なからずの月給は

あれやこれやの振り込みで

残った微かで

今日、一番の贅沢は

夜に灯った大吉の酒

エリンギばかりを頼んでは

これが好きだと笑ってる

カシスオレンジ飲みおえて

調子に乗って日本酒飲んでむせている

先生は私は人生正直です

そんな、真っ白なタンクトップのような

人になれるよに

 

恥だけかくことを忘れないように

誰かを優しく思うときは嘘をつかずに思うこと

息の臭いのは嫌われるからと

今日の誘いを断るような繊細すぎる自分を忘れろ

カルボナーラ ペペロンチーノじゃカプリチョーザ

上手く言えないセリフだけど

あなたのセリフであることは確かだから

私の中の記憶と記録を確認して

提出した感想文のアンケートには

涙が落ちたけどそれも伝わりゃいいけれど

名前を誤魔化したから誰かわからない

いつかのあなたを見に来たよと

時間の軸ごとねじ曲げて

いつかのあなたを見ていたの

時間と時代は

たくさんの人とたくさんのお金を流し込み

色んなものを作っては壊して、また作っています

愛が足りないこの草はあまり伸びずに育つのかもしれません

花も咲かないこの草も

誰かの傷は癒せるかも知れません

感想文のアンケートには

涙で濡れてふやけた紙に

名前の欄には

草とだけ

 

時間と時代は

たくさんの人とたくさんのお金を動かしても

草ひとつの

胸の思いは変えられぬ

そんな思いの

草一編

詩にもならずに

草一編

したためまして

街に出る。

時間と時代だけじゃ

築けなかったこの街に

夜風が頬をかすめれば

いつかのセリフがまた思い出す