今夜、僕に訪れるもの【超短編小説】
その日、僕は今まで来たことの無い街までバスに乗ってやって来ていた。
窓際のバスの席から見える、見たことのない景色や建物、緑に、どこまでも切なくなって
バスを乗り継いで、どこまでも出かけた。
このまま、死ぬのかな
最近はこの言葉だけがループ機能に乗っかって、冷たい砂の嵐の中にいるように、心を取り乱させる。
買ってもいないのに、グラビアタレントのポスターが古くなって、剥がれていくイメージを繰り返し見る。
あの子誰だっけ、わからないままに、次のグラビアタレントのポスターが貼られている。
この子誰だっけ
この間、初めて戦争の夢を見た。戦争の最中にいた。何もできずに、戦争は進んでいった。とても怖かった。
バスの外の光景は、ネオンのビルディング、大きな看板の古い建物、長い長い曲がり道。野の原。静かな水面。
僕はバスに乗ったまま、眠りに落ちた。
そのまま、夢を見た。不安な夢を見た。
先輩に誘われて、凄く朝の早い時間に、新聞を取りに行く。
ある場所まで行くと新聞が積んである。そんなに大量というわけではないが、一人で配れる量ではとてもない。
僕は先輩とそれを分けてもって、先輩の後をついていく、僕はどこの家に配達していいか、わからない。
先輩に聞くと、大丈夫だからと、配達する家の時は教えてくれる。でも、覚えられない。どこの家に配達したらいいか。
配達が終わって達成感よりも、次、配達する時にどこに配達したらいいか、不安でならなかった。
夏の盛りに頂があり、その後に打ち上げがあって、そのまま、また、不安になりながら新聞配達のバイトに先輩をついていった。
穏やかな子守唄は戻らない 思春期に牙を奪ってしまえ
バスで目を覚まして、さっきまで見ていた夢を思い出していた。新聞配達の夢は繰り返し見る夢でいつもどこに配達したらいいのかわからない。
たぶん、先輩が次にどこに配達するかを書いたものを持っているはずなんだ。だけど、あの人が独り占めして。
そんな事を、夢から覚めて気がついた。アレ、バイト代ってどうなってるのかな?
そんな事を、夢から覚めて考えていた。
優しい鼻歌が歌いたい 笑顔と温もり
バスにどこまでも揺られながら、そんな事を思っていた。