大いなる帰還【豚山肥太】

豚山肥太の詩と小説を綴るページ

人が消える【超短編小説】

はりつめた・・・

これは、伝記にある話を現代的解釈をした寓話である。

弓を張っていく

張れば 張るほど たわみはなくなり

伸びに伸びる

張り詰めに向かい濃密に粘着していく

ある男が、いた。

男は、締め切り間際の原稿を抱え

切羽つまっていた。

寒い寒い冬の事である。

男の部屋の灯油ストーブは、油が、2週間前から、切れていたが。

男は、汗がひたすら出るので、むしろ、熱いとさえ感じていた。

それは、冷や汗に他ならないのだが。

 締め切り、印刷所との交渉が、始まっていた。

男は、編集から、ひっきりなししに、かかる電話の度に、心臓が止まるほどの圧巻を受けるので

電話線を抜いていたが、背後に編集が立っているような気がしてならない

何度も振り向くが。

そこには、この原稿の為に集めた資料の山が、そびえたち、雪崩を起こしていた。

男が、最後に振り返って、どれだけ時間がたったころだろう。

男には、原稿に書く文字、一文字しか、存在しない世界に入っていた。

字を書けば次の字が出てくる。

自動筆記とよばれる状態かも、しれないが、男は、操っている感覚はあった。

男は、寝ていない。

灯油が、切れたあとであることは、確かだ。

あまりの睡眠不足は、男の脳内の神経伝達物質の伝達に、異常をきたし、もはや、大陸最大の巨大な滝の様に

けたたましく、流れていく。

男の精神と肉体の緊張状態は、極限へと、なだれ込んでいく。

狂う

そんなことなど、言葉も概念も消えていた。

地球の危機という言葉がある。環境問題の文脈で語られる事が多い言葉である。

私の知りうる限り、最大の地球の危機は、東西冷戦下のキューバ危機と認識している。

核と核が、もっとも、コア(中心)だった。地球がなくなるかもと、世界中の人が、考えた。

結局、今、この文章があるように、地球は残っている。

●近年、戦後に始まりだした、海岸部の神隠しが、都市伝説とされていたのが、近年、北朝鮮による拉致であることがわかった。

消えていた人々は現れた。まだ、帰ってこない人達もいる。悲劇なんて言葉で代用できない地獄である。

拉致事件が相次いだ中に、消えた人物がいた。

しかし、拉致の話とは、整合性に欠ける。

本当の神隠しと、近隣の住民、とある雑誌の編集部内で、そう語られていた。その人物には、身寄りがなく。

2012年2月4日現在。人の記憶からも消えてしまった。

やっと、原稿を書き終えました。

この原稿に書いた消えた人物とは、わたしのことです。

【了】