人が消える【超短編小説】
はりつめた・・・
これは、伝記にある話を現代的解釈をした寓話である。
弓を張っていく
張れば 張るほど たわみはなくなり
伸びに伸びる
張り詰めに向かい濃密に粘着していく
●
ある男が、いた。
男は、締め切り間際の原稿を抱え
切羽つまっていた。
寒い寒い冬の事である。
男の部屋の灯油ストーブは、油が、2週間前から、切れていたが。
男は、汗がひたすら出るので、むしろ、熱いとさえ感じていた。
それは、冷や汗に他ならないのだが。
締め切り、印刷所との交渉が、始まっていた。
男は、編集から、ひっきりなししに、かかる電話の度に、心臓が止まるほどの圧巻を受けるので
電話線を抜いていたが、背後に編集が立っているような気がしてならない
何度も振り向くが。
そこには、この原稿の為に集めた資料の山が、そびえたち、雪崩を起こしていた。
男が、最後に振り返って、どれだけ時間がたったころだろう。
男には、原稿に書く文字、一文字しか、存在しない世界に入っていた。
字を書けば次の字が出てくる。
自動筆記とよばれる状態かも、しれないが、男は、操っている感覚はあった。
男は、寝ていない。
灯油が、切れたあとであることは、確かだ。
あまりの睡眠不足は、男の脳内の神経伝達物質の伝達に、異常をきたし、もはや、大陸最大の巨大な滝の様に
けたたましく、流れていく。
男の精神と肉体の緊張状態は、極限へと、なだれ込んでいく。
狂う
そんなことなど、言葉も概念も消えていた。
●
地球の危機という言葉がある。環境問題の文脈で語られる事が多い言葉である。
私の知りうる限り、最大の地球の危機は、東西冷戦下のキューバ危機と認識している。
核と核が、もっとも、コア(中心)だった。地球がなくなるかもと、世界中の人が、考えた。
結局、今、この文章があるように、地球は残っている。
●近年、戦後に始まりだした、海岸部の神隠しが、都市伝説とされていたのが、近年、北朝鮮による拉致であることがわかった。
消えていた人々は現れた。まだ、帰ってこない人達もいる。悲劇なんて言葉で代用できない地獄である。
拉致事件が相次いだ中に、消えた人物がいた。
しかし、拉致の話とは、整合性に欠ける。
本当の神隠しと、近隣の住民、とある雑誌の編集部内で、そう語られていた。その人物には、身寄りがなく。
2012年2月4日現在。人の記憶からも消えてしまった。
やっと、原稿を書き終えました。
この原稿に書いた消えた人物とは、わたしのことです。
【了】