大いなる帰還【豚山肥太】

豚山肥太の詩と小説を綴るページ

泣きながら元気ですかを歌う

トゥナイトがNGKに珍しく出ていたので見に行ってきた

なるみ姉さんが、ひたすらボーリングをしていた

ボーリングの球は、何か薄汚れていて、僕はトゥナイトらしくないとNGK

ルミネのお客さんの声を、インタビューした、レコードを届けようと

そして、何枚か近所にも配れるように

プレス工場へと足を急がせるのであった。



それは、まだ、僕の人生の自己肯定感のまさかの大復活祭りのはるか前のことで

僕は、3冊目になる、原付免許の取り方の本を買っていた頃だった。



ラジオが好きだった。だから、夜遅くにテレビを見るのは、家のきまりで許されないとされていたので、

僕は、ラジオで色んな映画を聴いた。

目を閉じると、小学生には、まだ、分別のつかない、フランス語だか、ヨーロッパの言葉で、台詞はささやかれ、少年の頭の中には、どこまでも、銀河系の様に、想像の世界は広がっていった。



正月には、休みをもらって、今年は帰るからと、父に告げると、実家は倉庫になったよと、父はささやいた。正確には、ハーモニカを使ってそれを伝えようとしていたけど、何もかも間違えて、ただ、ささやいていた。



そんな僕にも、新しい友達ができた。



ところで、なるみ姉さんの投げたボールは薄汚れていたいたわけではなく。

何を間違えたわけでもなく、物凄く下手くそな字で、姉さんはボーリングのボールに

ラブを殴り書きしていた。

そのボールを、指二本で投げる。つまりは、ピースで投げて、ラブのボールをピースで投げていたのだ。

そう、なるみもまた、選ばれし、ロックの塊の様な、戦士である。



なるみの投げた、ラブ アンド ピースが 僕の頭の ややこしや を 吹っ飛ばしていく



商店街の、文房具屋の奥の方で、ブルドックの様な顔をして、いつも店番をしている、爺さんが、僕に言う。



何も足さなくていい。何も足さなくていい。

と、どこかのCMから、もろにぱくった言葉を僕に言う。



僕の友人には、まだ、名前がない。性格も、身長も、髪型もまだ、ない。



だけど、ぼくは、この惑星に、ひとりぼっちではないことを、友人は教えてくれているような気がする。

気がすると、思えるだけで、だいぶ、前に進んだよ、と、なるみ姉さんは、また、新しいロックンロールのはてどない旅路へと、ハーレーにまたがり、消えていった。

 

 

 

あれから、3年が経った、友人とはあの日以来会うことはなかった。

いつか、再会する時には僕はカンヌでもベネチアでも取って、そして女装している

そんなことを言えた事も生涯忘れる事はない

あんなに一緒にいて気楽な人にはもう出会えない

 


夜の街には、狂ったように、親父のハーモニカが響いていた。



でも、やっぱり何もかも間違えていたから、焼き芋買いに、女子高生が来て、めっちゃめっちゃ、親父は文句言われてた。