大いなる帰還【豚山肥太】

豚山肥太の詩と小説を綴るページ

ノイジーサマー【小説】

目の前にホログラムの様に過去の恋人たちが映し出され、一人づつ、最後に交わした言葉を言っては消えて、言っては消えてを繰り返した。あっという間に終わったけれど。

 

最後に出てきた母に似たタレントさんとは、何の関係もなかったが、どうやら、今日の僕の仕事は、この人とお近づきになることだと、理解した。

 

通学先の学校では、卒業式が行われていて、卒業式は思い思いに暴れまわり、地元の成人式のようになっていた。

 

僕は入学の決まった学校の時間割をもらうと、朝の4時半に通学する枠が当たった事を教えられた。この学校では成績がいい程、早く学校に行ける。嗚呼、午前0時に通学していく人達にはどんな景色が見えるのだろう。

 

学校に行くと、一人に1台コンピューターが与えられており、僕のものの性能はどのくらいか、周囲の人のコンピューターを見回しながら、封を開けた。僕のコンピューターはなぜか、HDDだけだった。どうしていいかわからず、近くにあったビデオデッキと上手く接続させて、嫌な記憶はここに記録できる装置を作ることに成功した。

 

皆、通学してくる時間になり、各々の生徒の今回のパートナーも登校してきた。やはり、午前0時付近の生徒達は慣れたもので、登校してきた彼女達を次々と口説きおとして、パスワードと銀行の暗証番号とマイナンバーを聞き出すことに成功していた。

 

僕の席の隣に座った女の子は、すぐに朧気な記憶に変わってしまいそうで、僕は手製のHDDデッキに記憶をするのでやっとだった。彼女が1と言って指を一つ立てる。僕は何をしていいかわからない。くすっと彼女は笑って、彼女の勝ちのようだった。彼女はホログラムのように、薄くなっていく。

 

まだ、何も聞けていない。まだ、何も話せていない。

 

大陸の話も、どこから来て、どこへ向かうのか、そういったありふれた話も、できないまま、僕は失敗に終わった。大きな鐘の音がなると、学級にいた制度達は皆、鳥になって、窓を開けて、海へと飛び立っていった。僕だけ一人、学校に残されたようだ。

 

手元を見ると、手紙が奇麗な字で届いていた。封を開けた。

 

今は辛いかも知れない、この先も辛いかも知れない、たぶん、一生辛いけど、お前だけはお前を愛せ

 

なんとなくの意味を汲み取っては、この先の人生という戦場へ戻った。悲しいことは何もない。ただ、自分を責め続ける日々に飽きただけ、教室から飛び立った1羽が、低い所を飛んでいる。

 

彼女に会いたい気持ちで、胸が焦がれたが、帰り道の夜更けの街では、祭り囃子に露店の賑わいで、いつまでも続いておくれと思わされた。

 

花火も見ずに、別れた君の黒髪恋し

 

HDDデッキに録音しておいた、いつかの花火の音をイヤホンで聴きながら、横になって、切なくて、少し泣いた。

 

夏のドリルにはまだ手をつけていない。カブトムシが、iPS細胞の話に夢中であった。