なる。【小説】
降り出した雨は街をすっぽりと網のように蚊帳のように覆ってしまって、
雨に苦しむ人を生み出して、傘がいつもより売れて、室内にいる人の数が、前年同日比と比べて、幾分、増加した。
私は水平線の夢を見ている。
男は、無人のスーパーマーケットに入ると、流行の女を手に入れた、次に自販機のコーナーで、第一子を購入すると、カートに載せ、マイホーム売り場まで急いだ。
とにかく、気分がすごく悪いんだ。こういうのって、何かの病気の初期症状だっけ、とにかく、気分が悪いんだ。ずっと、ずっとね。
マイホーム売り場まで来た男は、都心のタワーマンションを購入すると、福引きの券をもらい、それで夏の家と、冬の山小屋を追加で入手した。勢いよく、男はそのまま、平凡な人生を売り払った。
勝利者になるのが、誰かは誰にもわかりはしない。
確信犯で挑め、マイクタイソンも負けるときがある。
文学は文字面に几帳面、何も残りはしない、泡沫候補の彼方。
兎にも角にも、ひどい気分がおさまらない、手元のデバイスで症状診断の窓口を訪れ、判定結果を待った。画面はバグが起きたのか、マイクタイソンが高々と拳を上げていた。ガッツ石松はマラソランナーとして覚醒し、間寛平の教えを請う。
僕はどこへ行けばいいだろう、雨の街の中を、車の後ろに家族とやらを乗せて、僕たちはひたすら、夏のキラーチューンを流しっぱなしで、雨粒に限りなく近づいていた。水面の飛沫に限りなく近づいていた。
人間なんて、しょせん水分さ。
どういう意味かもつかまぬうちに、僕は一滴のしずくとなった。
さぁ、どうしよう。どう生きようが、僕の勝手だが、しずくになってしまってはできないこともある。
人間であったころの後悔をしながら、僕は一粒、うつくしい人の頬に落ちた。