大いなる帰還【豚山肥太】

豚山肥太の詩と小説を綴るページ

宛先の無い手紙【超短編小説】

ネクタイをする練習している。働くことが少しづつ、近づいている。そして、働く為にすることが、ひとつ、ひとつ、確実に増えている。怖い、怖い、なれどマネーイズマネー。

ついこないだまで、書いていた手紙の宛先が思い出せない。正確には思い出せないのではなく、思い出せないのてはなく、マネーイズマネー、資本主義だ。金が世の中を回す回す。かき回し、ひっかき回して、中小企業の銀河系は曼荼羅を描いて、森羅万象を露わにす。

民放のテレビの猿に似たコメディアンのボケ方が面白いので、手紙に書き留めた。
スターバックス宮崎駿にそっくりの白髪の爺さんがMacbookPro使ってたので書き留めた。
バス停に2時間もいて、結局どこへも行けずと書き留めた。

どの道順を来て、どの道を行こうか筆は迷えど、書き留めた。

さて、宛先を書こうぞと、宛先はない。
純粋な感情はどこかに置きっぱなし、カラカラと鳴るだけの時間の中、くだらない。くだらない。サンタクロースがやってきて万事解決塞翁が馬かな。僕の心は宛先を失った。

民放のくだらないウルトラマンに似たコメディアンのボケも届くことは無く。
スターバックスを出ようとしたら、出口で宮崎駿似の爺さんが、肩に黄色い小鳥をのせていたことも。あちこちのバス停で弁当を食べているという、完成形の奇怪なオッサンに成れた事も。

どのポストマンからポストマンへと継がれたとして、届くことはないことを。

ふと、にやついて、書き留めようとして、もう、宛先を自分で失ったことに、気がついて。
寂しい気持ちの自分に気がついて、しばらく感情に浸かっていたら、世界が宛先があった頃より小さくなったような気がした。

あてどなく、夜の雨道を自転車で走る。まるでひきこもる直前の大阪の街を徘徊する高校生の時のように。人を強烈に信じたくて、人が途方もなく怖かった頃に。

雨が降る。雨が降る。

詩人を名乗るなら、少なくとも言葉を扱う上での照れなど忘れろ。

ブラックホールの外側のゼロ宇宙の拡大のように、僕は夜の中を孤独でない場所を求めて、走り回った。宛先を探して。小さくなかった世界を探して。それでも怖かった、人がとても怖かった。

どうしたら、人に伝えたら伝わるかわからない。そもそも、伝えようとすることが愚かなのかも知れない。19の僕が精神科医から出された薬を飲まなかったら、まだ、部屋の中かも知れない。

そのくらい人が怖い。何もかも上手くできない。そのまま、屈辱の石になり、僕は千年眠った。





千年経ったら、朝顔は咲くだろうか
千年経ったら、人を信じられるだろうか