2020年の豚山肥太のことのすべて

豚山肥太による詩と小説を綴るページ

彼女の匂いがした【超短編小説】

合宿が始まった。テストに向けた合宿と柔道の全国大会に向けた合宿がリバーシブルになっていて、かつ、恋愛の要素も織り込まれた合宿が始まった。
僕はどこかの学校から来ているこの合宿のホスト側の学校のはすっぱな女の子に恋をした。恋の経過は定期的に、馬券の予想屋のような学生が、紙切れを一枚くれて教えてくれた。
僕は全く上手く話せなくて、とにかく、柔道の練習に明け暮れた。

ホスト側の学校は、色々とイベントを仕込んでいて、合宿に飽きる事はなかった。その度、予想屋を訪ねたが、いっこうに彼女の気が向くことはなかったが、最後のイベントにはこっちにも相手いないしと、彼女が来てくれる事になった。最後のイベントの日は、全国大会をかけた地区予選の日なのだが、とにかく、リバーシブルな世界なのだ。色々と複雑で兼務しなければならない。

地区予選の前々日、練習もここでいったん、全員に休みが取られ、僕らは自由に時間を使っていいことになった。僕はプールに行って、最後の体力を出しきって、思いっきり眠ろうと思った。
こんな時も練習するんですか?とホスト側の学校の柔道部の生徒は驚いていたが、うちの学校ではこのくらい練習することは珍しくも何もなかった。

プールに行ったはずなのに、そこはファミレスの一角を貸し切ったようなイベント会場になっていて、今回の合宿で出来たカップルの発表と、これまでとその後の恋の結果がどうなったかの結果発表とお祝い会が行われていた。疑問を持つことなく、その会に参加したが、自分に相手がいないのに、どうしたらいいのか不安だった。はすっぱな彼女には、意中の人がいるようで。次々と発表されていくカップルと幸せな姿を見ながら、更に更に不安になっていく、どうしてここに来てしまったのだろう。何度も予想屋のもとを訪れるが、数字は何も変わりはしない。

何のインサートか分からないけど、はすっぱな彼女と柔道の練習することになった。ひたすら、時間いっぱい、足払いで投げ続けた。この所、足技は美しいと考えていたからかも知れない。全くわからないけれど、そんなに女子をこてんぱんに投げなくてもというくらい、足払いで、美しく奇麗に投げていた。びっくりするほど奇麗に技は決まった。柔道の技は上手く投げると、びっくりするほど、痛みはない。骨格を使ったマジックされているようで。相変わらず、彼女はひるむ事なく、投げられる度にこちらに向かってきた。全く何のインサートかわからない。

地区予選の日に、会場に行くと、そこはテスト会場だった。そういえば、前日にひたすら、試験範囲の勉強をしていた事を思い出した。テストが始まったが、やはり物理がさっぱりわからない、なんせ、習ったことのない法則が出てきている。難解だなとセーターに、二人の空を飛ぶおじさんのセーターに書かれた別々の物理法則から、解を求める問題を諦めた。

次の時間は聞いた事のない、ここのホスト側の学校関係者の手作りの弁当の盛り方の問題だった。食品サンプルを組み合わせて、年に一度の祝い事の弁当を作る。こんなテストは受けた事はないと疑問に思っていたが、テスト項目を見たら、納得がいって、そりゃ受けた事がない。と、深く得心がいった。弁当を盛り付け終わったら、特別ゲストです。と、ステージができて、小学校の担任が出てきて、電飾まみれで、たぶん、褒めているんだろうということはわかった。何もかもの終わりの時間が近づいていて、僕は彼女の事が気になって仕方がない。
恋の予想屋を訪ねたら、満面の笑みで、恋の実りを知らす紙をくれた。

まだ、弁当の盛り方のテストの終わらない会場で、彼女に借りていたカメラや小物を返そうとしていた、彼女に無くしてしまった小物は今から探して絶対返すから。そう伝えた。彼女の写真を取ることもなく、淡く淡く彼女はそこにいた。返さなくてもいい。と、彼女に言われてしまううちに、時間を遮るように、列車が僕らの間をはしって、砂煙が高く高く上った、彼女の記憶だけが、淡く淡く、顔ももう思い出せないくらい、淡く淡く、恋心だけが、妙に匂いのように僕には残っていた。

雨の音が鳴り止まない、試合会場にいることに気がついて、自分の試合が近づいていることに気がついた。

何のためだろう

なぜだか、繰り返しその言葉が、心の中を鳴いていた。