大いなる帰還【豚山肥太】

豚山肥太の詩と小説を綴るページ

生の獄【詩】

わたしは

 

もしかしたら

 

くだらないのかも知れないと

夜の中を這いずりながら

 

薄い茶色の瓶を手からも持てずに

 

わたしは 悲鳴にもならぬ

泣き 泣き 小さな息づかいを上げている

 

会社のパソコンの前で

 

何もできなくて

 

誰に助けを呼べばわからなくて

キーボードで何度も

 

助けて

 

とタイピングしては

自分の存在のように消してしまう

ねぇ あなたも あの河を渡ったのかい?

 

どこかで死神天使がそういうんだ

 

真っ暗な夜のマンションのベランダに

 

足をかけて

 

家族の誰か帰って見つけて止めてくれないかと

 

思いながら

 

誰かわたしを見つけた人がいたら

 

通報して

 

そうして わたしを 救って

叫びのように わたしは マンションの最上階で 泣いていた

図ったかのか?図ったのか?

 

エンドレスに続く検閲係の質問は

 

答えれば

 

河を渡れるのか

 

河を渡れるのか

 

わたしの結晶に向かう思いは

 

ここで、やり過ごすわけにはいかない

泣き 叫び 心の奥をひどくつねって

 

ざらざらと胸がなって 

 

終わらない

男と女の夜の果てになど

 

正直、興味などありはしない

 

ただ、あなたの胸の音を私の胸で鳴らして

時々、誰かを抱きしめたくて

 

仕方なくて

 

夜にさまよい歩いて

 

夜明け前のホテルで

 

女の帰った後に

 

胎児のように

 

弱い 弱い 自分の少年時代を抱きしめている

河を渡る気などなかった

 

河を渡れるはずなどなかった

夜を這いずり 夜を叫び終えて

 

わたしは ストックしておいた

 

睡眠薬を あらかた 流し込んで

確かに その時 河を渡った

 

もう 戻らないと 河を渡った

何もかもが安堵で 幸せだった

なぜに ああも 苦しむ必要があったのだろう

 

ただ、河を渡ればよかったのだ

わたしは、深い眠気に安堵して

 

誰かに抱きしめられたような場所にいた

 

生まれる前か 地獄の最果てか

 

その丁度真ん中でバスは止まって

運転手は

君は まだ 自分を 証明していない

 

と告げると

 

わたしをバスから下ろした

 

河を渡ったはずなのに

 

こともあろうか

 

わたしは生きてしまっている

頭がクラクラとしながら

 

瞼が光を確かに捉えている

ねぇ 母さん また 泣いてもいいかい?

 

ねぇ 母さん また 泣いてもいいかい?

僕は身体いっぱい使って

 

おぎゃあに似た 泣きを叫びを上げた

震災から二年が立った

 

マンションの一室で

 

這いずり回ったわたしは

 

わたしなのか あなたなのか 

 

抱きしめられて

 

まだ、生きている

 

誰か助けてを

 

今度は言える為に