2020年の豚山肥太のことのすべて

豚山肥太による詩と小説を綴るページ

役者のいない舞台【超短編小説】

彼女といつ約束して出かけたかもわからない旅行の記憶がロードされている。

JRなのかどこの鉄道会社がはじめたのか、決まった列車の決まった車両は、ある種の出会い系になっていて

男は男の座席を取って、列車に乗る。その時、確かに彼女と僕は同じ席になり、旅をしたのだ。

今度もそのサービスを使って待ち合わせしようと連絡が来た。

僕は、なんとはなく、その時の座った座席と、いつまでも続く、水の風景は思い出せるのだけど

僕のブラウザの履歴にはひとつも、そのサービスのデータが残っていない。

一つ試しだと、最寄り駅のキオスクのパートさんにたずねると、スポーツ新聞と、みかんを買うように
言われた。

パートさんは、スポーツ新聞を開くと、フクシマへ働く広告の沢山載った欄の広告を指さして

リスティング広告、パンダアップデート、ペンギンアップデート、Chromeブック」

と、よくわからない事を言いながら、カニの様に泡を口角からプツプツとあげている。

僕がキオスクの小説の棚の、官能小説を、パートさんに注文すると

駅の階段が現れ、僕はそこから、また、彼女との旅に出ることになった。

乗った電車の僕の車両は、回転寿司の様に、沢山の料理が回っていて、彼女を探すに探せない。

自分の席だけ確保して、どこかで続いた水の景色を思い出しながら、カニが食べたくなった。

回る料理の真ん中の料理人はニヤリと口角を上げると

カニ料理を次々と回転させ始めた。

気がつくと、車両の中は彼女の親戚一同で、彼女の見当たらない車内に不安になりながら

カニを、小学生の徒競走の様に一生懸命食っていた。

列車は、どうしたのか、僕の実家の最寄り駅の路線に入ってしまったようで

僕は、列車から降りると、工場だらけの街を、凄い数の労働者達と、共に、実家に帰ろうとした。

実家につくと、そこは市営住宅の長屋の様なアパートで、そこには誰も住んでいなくて

はがされた畳の上で、いくつもの規格のWi-Fiルーターが、稼働していた。

そういや、ここは人に貸してるんだ、今。

という事を思い出すと、Wi-Fiルーターのひとつから、僕は

インターネットに接続した。

行かなきゃ ならない。

あの日の出会い系の 座席の場所へ

「コレ、外人さんが好きでね」

と、テレビに繋げて使うメディアプレイヤーを買った記憶が流れて

ドラマがはじまった。

明石家さんまが、高価なものを盗んで、ホテルが火事になって、丸裸で逃げ出すドラマだった。

何を示唆しているのかはわからなかったが

僕は、実家の街で、また、屋外店舗型のコンビニで働き始めた。

休みの日には、決まって、50オーバーのこじゃれた親父達が集まる、カフェで時間を過ごした。

コンビニは屋外店舗型なのはよかったが、シフトが朝早くて、夜に寝付けないのが不安になった。

韓国料理なのか、豚肉を独特の辛い味付けをして、そこに、また変わった麺を絡ませる、

それを、提供する店舗が、バイト先のコンビニに近くにもいくつもできた。

いつかいこうと思いながら、僕は、この街を出ようと思った。

テレビで見た、田舎で職人やってる若い兄ちゃんが妙に羨ましかった。

デジタルというものを、全て否定して、

僕は、記憶の中へ、深く深く、潜っていく。

保育所に行くときに、自転車の後ろの席から、服の下に手を入れて

ぬくたくて、驚いた、母の背中を思い出した。

ぬくもりの繭のようなものに守られてしばらく眠った。

目が覚めると、列車の窓からは水面がどこまでも続いていく。

我が恋は 夢の中にも つかめえぬ

東京の積雪を伝えるニュースが、ラジオを鳴らしていた。