大いなる帰還【豚山肥太】

豚山肥太の詩と小説を綴るページ

夢の中の九月【超短編小説】

もう、会えないと思っていた女の子を

初めて乗る車を走らせて

彼女のいるという国まで走らせていた。

彼女の国まで来て

学校のグラウンドでは野球が行われていたのだが

バッターの小学生の女の子のフォームがおかしいので

僕が注意すると

ありがとうございますと、コーチが答え

女の子の打った球の先に

彼女はいた。

その日は、彼女のうちで、野球の試合の打ち上げが行われていて

僕もなぜだか、それに参加して

クイズ大会がはじまった

僕と彼女は同じ高校らしかったけど

僕の記憶に彼女の高校時代はない

僕たちはなぜか

チームでクイズに答えていた

答えは色々見事にあたって

頭のいい人だと

彼女のことを思った

隣にいて

そうしているだけで

ものすごく大事な時間を

感じた

あっという間に宴は終わって

彼女に僕は連絡してもいいかと聞いた?

また、やたらめったら、送りつけるだろうと

彼女は三ヶ月に一回なら

メールを送ってもいいと

その時にいった

そこからなぜか、目の前はスクリーンに帰り

帰路につくはずの僕と

恋というものが

形を変えて現れた夢の中の彼女のその後の人生が描かれていた

僕は目が覚めて 夢の中で 無邪気に笑う 彼女を 思い出しながら

本当に 彼女を 思うことさへ 終わりにしようと思った

夢の中の9月は今朝、はっきりと終わった事を僕に告げた

人間の脳の構造や夢の事は、まだ、解明が進んでいないことが多い

ただ 夢が 教えてくれたのだ

もう 思うなと

彼女は彼女の人生を生きていて

それは おまえが 思っているほど たやすい世界ではないと

たぶん、今でもそうで

これからでもそうだろうけど

たぶん、これほどの恋はしない

夢の中の彼女との再会は二つのパターンがなぜか同時に僕に

録画されていて

もう、一方では車に乗った僕とすれ違うように彼女は新聞配達をしていた。

ひどく痩せて

長く続いた

僕の中の初恋と36才の初恋は終わったのだ。

目が覚めると 外は雨が降っている。

雨があがったら

文庫本でも買いに行こうと思った。

太宰治か、石田衣良か、とにかくセンチメンタルな気分に浸れる小説を流し込んで

また、生きていこうと思った。