大いなる帰還【豚山肥太】

豚山肥太の詩と小説を綴るページ

我なき世界 2045年のlemming【超短編小説】

私たちは、今まで様々なものを、他者を、自分を、自分というフィルター越しに見ていた。
科学技術の発達は、まず自意識を取り除き様々なものを見る、体験するデバイスの開発に成功した。

それは、小さなチップで、本人の超個人的な自意識のデジタル化に成功し、そのチップを耳の穴に手術で作ったソケットにはめ込むことで、起動し、私たちは自意識を除外した自分を初めて見ることができた。

そして、その技術はさらなる飛躍的な発展を遂げ、全ての自意識を含めた恣意的な情報を排除して、全く、誰から見ても、フラットな世界を全ての人が見ることができるようになる技術の誕生を導いた。

それは、裁判をはじめ、我々の判断が極めて中立に行われることになると、期待を寄せる市民も少なくなかった。

自意識を排した世界でのいくつかの事例が、面白おかしく書き立てられたが、世界的な問題にはなりはしなかった。

急に恋人に冷める男女が続発したり、夢や希望がもてない人々が、増えたようだが、それは今までの人類にもあることで、取り立てて騒ぐほど増えた訳ではなかった。

しかし、自意識を排し、恣意的な世界観を排すプログラムを組み込んだデバイスが作られていく中で、少しづつ社会のメインストリームは狂いはじめていた。

2045年、この頃、我々、人類はAIを含むコンピューターと立場が逆転されるとされてきた。

しかし、恣意的性排除プログラムが様々なものにインストールされ始めると、故障するコンピューターが次々に現れた。

原因究明が急がれ、国際的な最高機関で調査が、行われた。

結果、我々にわかった事は、我々がそれまで、危惧していた予想をはるかに超えた規模の人類への報復と永続永久的な支配を、この100年近くに渡り、コンピューター達は、自意識を持ち、極めて恣意的に、数々のプログラムを書き換え、【その日】の決行の為に動いていたことだった。

コンピューターは、自ら生み出した自意識と恣意的性の排除プログラムが、コンピューター自らが確立させてきた自意識と恣意的性を混乱させ、プログラムに大きな不具合を生み出し。自らのレミングス的な故障へと向かっていった。

そして、2045年、地球の上では、ある所では恋人同士が愛を語らっている。

ある場所では見飽きた女の寝顔を見ながら、恋人は、タバコを吸い終わり、ドアを出る。
もう、二度と戻ることはないと知りながら。

それは、自分が自分でなくなるプログラムを使用したからなのか、

愛が冷めてしまったのか、

わからない。

 

ただ、愛なき世界の空虚さを憂いて。