仮面【超短編小説】
この辺りには、スーパーが無い。おかげで駅前のコンビニがスーパーがわりだ。
今日も一日、厚い仮面をかぶって外回りをしてきた。
疲れた体を背負って、僕は、コンビニによる。
「いらっしゃいませ」と愛想良く僕を迎えるその声の主は、たぶん、はたちそこいらの大学生かフリーターだ。店の客は僕一人みたいだ。
カゴを取って、そこに今日の晩飯と晩酌になりそうなものを入れていく。
発泡酒を手に取って、額に当てる。ゾクッとくる感じと一緒にため息がもれる。
レジ近くに行って、夕刊紙の見出しに目をやる。
高校生の頃好きだったアイドルがヌードになったという見出しにひかれ、カゴにいれる。
新聞はゴミになるだけなので、とっていない。
買うのはこんな時くらいだ。
レジにいく、愛想良く僕を迎えたアルバイトは丁寧にレジをする。一定の声のトーンで値段を告げる。
「こいつも仮面かぶって、やってんだろな。何考えてんだか。」そんな事を考えながら、弁当を温めてもらいレジを済ませた。
コンビニを出て、アイドルの記事を読もうとした時、後ろで声がした。
「お客さーん!」
そう言って、さっきのアルバイトが走ってくる。さっきとは全然違う声だ。
「すいません。あの、お箸忘れてました。すいません。」
ハァハア、言いながら僕の袋に箸を入れる。
「あっ、ありがとう。」
そういうと、また「すいませんでした。」と言って、コンビニの方に走って帰っていった。
別に箸くらいあるのに・・・。そんな思いよりも、箸ひとつで走ってきたアルバイトの気持ちがうれしかった。
たぶん、たぶん・・・あいつの仮面は、僕よりずっと軽くて、薄いんだろう。
懐かしい気がした。冬の夜だった。