大いなる帰還【豚山肥太】

豚山肥太の詩と小説を綴るページ

ジェット・ストリーム・コースター・イン・ラブ【超短編小説】

二人ともアルバイトが、お休みの今日、彼の住む家まで、駅から、彼の自転車のうしろに身体を横にして乗っていく。

「ちょっと増えた?」

「うーん、今朝計ったら、46だったから、増えてない。・・・って何言わせる!」

「ハハッ、ほんじゃぁ、行くで、ザ・蛇行運転!」

「キャー、やめて、落ちるぅ。」

二人でキャッキャッ言いながら、彼の家を目指す。交番が近づく。

「ポリスマン!」

小さな声で彼はそう言って、私は、彼の自転車を降りる。お昼の太陽が、歩く二人を照らす。

交番を、通り過ぎる。

「行くで!」

彼の自転車にまた乗る。

「やっぱ、増えた?」

無視・・・。

商店街を抜ける。そこから先は下り坂になっている。たぶん、恒例のアレが、始まる。

ジェットストリームコースター!!!」

そう、彼は言うと、勢いよく、二人を乗せた自転車は、下り坂を降りていく。

「危ないから!」

私の言うことなんかきかないで、自転車はぐんぐん速度を増す。

下り坂の最後は、T字路になっていて、彼は、速度を増したまま、つっこんでいく。

自転車がT字路を曲がろうとした時、向こうからも自転車が来たよう。

ぶつかりかけたようで、急ブレーキとともに自転車は止まる。

彼の背中ごしに、相手を見る。あらら、ヤンキー高校生、三人。

「あーん、お前、なにやっとんねん?」

「しばくぞ!」

彼は、とっさに対抗して

「なんじゃ!」

と言う。アチャー、やめときゃいいのに気弱いくせに、ケンカ弱いくせに・・・。

「ちょっと、やめときよ・・・」

ヤンキー達は、火がついちゃったよう。

「よし、こいつしばいてまおう!」

盛り上がってる・・・。

私のほうを振り返り、彼は

「またげ!」

私は、とっさに足を開き、彼の自転車の後ろにまたいで乗る。

「腕っ節の強いのが、男というわけじゃぁございませんぜ。」

そう言った、彼の声は震えていた。

「すいませんでしたー!」

大声で、そう言って彼は、凄い勢いで自転車をこぎだした。

逃げる私達を笑う、高校生達の声が、きこえる。

また、下り坂になる。私は彼にしがみつく。彼の心臓の音が、きこえる。

自転車は、だいぶ走った、たぶん、彼の家も過ぎた。

自転車が止まると、そこは、見知らぬ公園だった。

彼は、自転車と私を置いて、フラフラと歩いていき。公園の草の上に横になった。

私は、彼のとこまで、走っていき、自分のカバンに入れていたペットボトルのお茶を渡そうとした。

彼の腕は、ガタガタと震えていた。

「大丈夫?」

呼吸するのも大変そうな、彼は汗だくで、ゼーゼー言ってた。

私のお腹を指差し、彼は言った。

「絶対、増えた。」

お茶を顔にかけてやった。

夏の近づいた、良く晴れた午後のことだった。

2005/5/15