大いなる帰還【豚山肥太】

豚山肥太の詩と小説を綴るページ

鳩のいない朝【超短編小説】

これはあくまで僕らの考える未来の話。まだ見ぬ未来の話。

 西暦二千年頃まではカードと呼ばれていた。僕たちの未来では、iと呼ばれる端末でありとあらゆる僕の情報は、この一枚のiに入っている。はたらけば労働から算定された値が入り、それで、生活圏の全ても、iという単位で集約されている。犯罪歴までiの中に含めれている。DNAの情報も何もかも。

 この国の子供達は生まれて首がすわる前にはiを身体に埋め込まれている。僕らはそれから、ゆりかごから墓場までiに全てを把握され、iのデータベースから、生まれたアルゴリズムで、理想の世界を作り上げたと世界中でそのプロパガンダの流れない日はない。

「何が理想郷だ。」

 僕の働くエリアで、地面にそう、ベテランの棚橋は書いた。想像にかたくないが、その行為は、革命運動罪で処罰される。棚橋の体内のiと、僕の視神経を通じてiに記録されたデータは、危険タグに反応し、サーチエンジンがすぐさま僕らをを逮捕しに、やってきた。僕まで逮捕されているのは、僕の中で、その危険タグに反応し、同調する感情を、脳の神経伝達回路から読み取ったからである。サーチエンジンは、僕らを暴力的に捕まえるとそのまま、僕らは連行された。その間も同期し続けるiの情報で、僕らの刑務所内での犯罪のランクが、凄い勢いで上昇していく。革命思考罪が革命運動罪に重なり、細胞分裂のように犯罪は増幅し、またたくまに、僕らは大テロリストになってしまった。

【刑務所の朝】

刑務所の朝には、国歌が流れる。

私たちは なぜ 顔や姿や体型や そんなことで人を判断してしまっていたんだろう

でも 今は違う 私たちには みんなの心が見える みんなのみんなのこころがわかる

こころだけのわたしたちの素晴らしい国 

拡声器から発せられる国歌の幼い子供の歌声に、本当に素晴らしいとその歌を歌っていた少年時代を思い出していた。