大いなる帰還【豚山肥太】

豚山肥太の詩と小説を綴るページ

こしお イン ザ ドリーム【超短編小説】

ニートだなんて、おばさん達がPTAで集まって、講演を聞くような、そんな言葉で、我が輩のセンチメンタルなアバンギャルドを呼ばないでいただきたい。

僕は、テレビでじゃがりこの新作のCMを見て、お口がもう、じゃがりこだ。

ここは、小町商店街の花屋の二階の僕の部屋。母を亡くした父がSMAPのミリオンセラーにやられて脱サラして、始めた店。

色んな花が並んでいるよ。本当に。

小町商店街の中の市場に行ってじゃがりこを買おうか考えるが、きっと、無精ヒゲ伸ばして、そのまま、指名手配の写真になりそうな僕に、市場の連中の目が痛かろう。

駅前の再開発で出来た大きなスーパーならドラスティックにかまってくれようもんよ。

僕は、花を愛でてる父を横切って、小町商店街を抜けていった。

スーパーに向かう道の途中で、向こうから明らかにおかしな風体の男が歩いてくる。

アフリカの民族衣装の様な模様の服を着て、絵に描いた様なメキシコ人がかぶってそうな帽子をかぶったその男は、その男は、そ、、その男は

こしお や!! 間違いないこしおや!!

こしおを呼ぶと、こしおは、凱旋帰国したプロボクサーの様に高々と手をあげて

「どっかで見た顔やな なぁ 相棒」

こしおは僕が誰かわかったようだ。

こしおという男に僕は小学校の一年から中学の三年までどつかれ続けた。僕がこしおから離れられたのは、高校から。その頃に聞いた噂で

パトカーを盗んで警官とカーチェイスして、色んな意味で地元で殿堂入りした男だ。

こしおと僕は変な関係性だった。いじめるいじめられるの関係でもなく。僕が言いたい事をガマンしたこともなく。ただ、暴力に出られちゃかなわない。

感傷に浸る間もなく、こしおは、背中の大きなリュックにたらふく入った異国の酒ごと僕の部屋で一杯はじまった。

殿堂入りしてからのこしおを僕は知らない。今のこしおがナニモノなのかも僕は知らない。

ただ、小学校や中学校の卒業アルバムを見ながら、ゲラゲラ笑ってた。

僕の部屋の窓は、春の風を運んできて、酒でポッとなった身体に心地よかった。

遠くから、どこかで聞いたようなドンチャラドンチャラと流れてくる。

「今でもあんねんぁ」

とこしおはだいぶベロンベロンに酔って、近づいてくるちんどん屋をみつめている。

僕は、アルバムからはぐれた一枚の寄せ書きを見ている。

将来なりたいものと、幼い字がいくつも、大きな夢を描いている。

なぁ、こしお と僕が声をかけそうになると

こしおは、いきなり、立ちじょんべんを我が家の二階から放ちやがった。

「おめでとう。こしお!!お前、ちんどん屋や!!お前!!ちんどん屋や!!」

幼いこしおの字は将来なりたいものに ちんどん屋さんと書いている。

僕は、泣いた。わけわからんけど、泣いた。

こしおも泣いていた。立ちしょんしてる、えげつなくかっこ悪いけど、めっちゃ泣いてた。

ただ、二人で

「何にもなられへんかってん!!」

って叫んでた。

こしおのしょんべんに夕暮れの陽の光が射して、虹がかかってますますちんどん屋だった。