この世の灯り【小説】#1
暗い部屋をさす灯りもなく、黒い絶望の中をもがいていた。
夢を見たのが悪かったのか、普通の人のように、普通に生きれば良かったのか、わからない。わからない。
僕は、止まらない脂汗と腹痛の酷さに、救急車を呼ぼうとしていた。この先にあるのは間違いのない死だ。なにもかも、医療に後は任せよう。もう、何もかもこれ以上は無理だ。
救急隊員の落ち着いた声に促されて、症状を話し、住まいの場所を伝えた。電話を切り、ゴミ屋敷を見られてはならないと、這いずるように、床をはって、マンションのエレベーターをはって、玄関に出て、仰向けになって、真っ黒な夜の天を仰いだ。
助かるのかな。精神的に少し楽になったのか、心は不思議に混濁した意識の中にも落ち着きを探している。
遠くから救急車のサイレンが近づいてきて、あっという間にストレッチャーで、運ばれて、少し遠くの病院が受け入れてくれて、僕はしばらく、入院することになった。
真っ暗な闇の中から、少し明るい場所へと僕は近づいていたのか?
更なる地獄変がこの先に待つのか、その時は知りもしない。考えたくもない。
ただ、点滴の落ちる滴を眺めているだけで幸福だった。
希望の形は人によって違う。
僕は、僕は、僕は、
確かではないことの最中で、幾度目かの夏が盛りを迎えていた。
つづく